オーケストラ・ニッポニカ「昭和9年の交響曲シリーズ〈その1〉」(2005/11/20@紀尾井ホール)
伊藤 昇/《マドロスの悲哀への感覚》(1930)
古きアイヌの歌の断片《シロカニペ ランラン ピシカン》(1930)*
橋本國彦/《笛吹き女》(1928)*
諸井三郎/ソプラノのための2つの歌曲《妹よ》《春と赤ン坊》(1935)*
《交響曲 第1番》(1934)
指揮=本名徹次/管弦楽=オーケストラ・ニッポニカ
ソプラノ=半田美和子*
日本人作曲家の知られざる作品の蘇演を中心に、意欲的な活動を続けるオーケストラ・ニッポニカ。今回の「昭和9年」という切口にも、日本人作曲家がヨーロッパで相次いで交響曲を作曲、初演した「栄光の年」であると同時に、作曲の内容においては世界水準を実現しながら国内の演奏家・聴衆のレヴェルの低さ、そして国際情勢の不穏化のために、穏健で平明な作品を書いていかざるをえなかった「挫折の始まり」でもあった1934年(片山杜秀氏の解説による)、という視座が、説得力をもって提示されていました。
橋本國彦の音楽にすでにして実現されている、職人的筆さばきと前衛的な先進性だけをとっても、その「栄光」が実感されます。ドイツの作曲家たちの向こうをはって、主題労作的な本格的交響曲をものした諸井三郎もしかり。そして、その後彼らがどのような思いで「退行」していったかということも、また。
現代日本の音楽について何かを考えるとき、たんなる進歩史観でなく、ひとつひとつの作品に虚心坦懐に耳をかたむけることによってしか得られない認識を積み重ねてゆくことを、けっして厭うてはならないのだと、教えてくれるような演奏会でした。[genki]
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