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2005/11/22

日本音紀行──音の風景をたずねて

伊藤由貴子[著]/四六判・並製・232頁

最近、コンサートなどに行っても、なんだかぼーっとしてしまって、「いったいいまなにを聴いていたんだろう?」と我に返るようなこともしばしばですが、コンサートなどにかぎらず、何十年も毎日歩いているような路でも、「ここにこんなものがあったのか!」というような風景をいまさらながら発見することもままあり、「聴いているようで聴いてない」「見ているようで見ていない」ということを痛感する今日このごろです。
そうした小生から見て、この本の著者がすごいと思うのは、「発見の天才」であること。著者はコンサート・ホールで、演奏会の企画などをしているひとですが、「音のプロ」であるから、というよりも、おそらく身のまわりのすべてのことにたいして「熱心」だということに尽きるのではないか、と思うのです。
たとえば、「嵯峨野・竹の音」という章の冒頭──「夕暮れ時、野宮神社から常寂光寺への道すがら、材木屋のように竹がずらりと立て掛けてある作業場を見つけた」。小生の実家は京都の嵐山で、ちょうどここに書かれた嵯峨天龍寺から果ては化野念仏寺へいたる道は、なんども歩いたことがあります。野宮神社も常寂光寺もよく知っているのですが、「はて、“作業場”なんてあったかしらん?」と首をひねってしまいます。「見ているようで見ていない」「聴いているようで聴いてない」の典型ですね。
音を文章であらわすのは難しい、とはよくいわれることですが、そして宮澤賢治のように独特の擬音を駆使して、その難しいことをやってのける天才もいるわけですけれども、著者の天才はそういうところにはない。さっきの竹屋の描写でも「カランカラン、コロンコロン」といたってふつうの擬音をもちいています。それよりもやはり、その竹屋を気にとめて、熱心に耳をかたむけ、描写にあたいする価値をそこに発見できるかどうか──そこにこそ、著者の才があると思うのです。
日本全国50カ所を、耳をそばだてて旅した、異色のエッセイ集です。[genki]

◎追記
・津軽三味線と太鼓のマガジン『バチ2 Bachi-Bachi』にて紹介していただきました。[2005/11/28]
・『邦楽ジャーナル』にて紹介していただきました。[2005/12/12]
・「bk1スタッフレビュー」で』にて紹介していただきました。Amazonのリンク使っててすみません![2005/12/14]
・『北日本新聞』2005/12/26朝刊の1面コラム「天地人」にて紹介していただきました(ネットでも読めます)。『朝日新聞』でいえば「天声人語」にあたる部分で、論説とともにその新聞の見識を示す場所。とても光栄です。[2005/12/27]
・『音楽の友』2006年2月号「BOOKS」コーナーにて、山口眞子さんが紹介してくださいました。[2006/01/24]
・『北日本新聞』が、1月23日付朝刊でとりあげてくださったという情報あり。上述の1面コラムに続いて2度め。本でとりあげている地元からの応援は、うれしいものです。豪雪のニュースを聞くたび、心が痛みます。がんばってください![2006/01/31]
・『邦楽ジャーナル』が2月号で、またまたとりあげてくださいました! こんどの評者は太田暁子さん。たしか太棹(浄瑠璃三味線)の研究をしていらっしゃる方ですね。感謝です。[2006/01/31]
・2つ前の『北日本新聞』1月23日付朝刊の情報訂正。9面の「文化」というコラムに、著者・伊藤由貴子さんのエッセイが掲載されていました。[2006/01/31]


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コメント

2006/08/09にある方からコメントをいただき、文中の誤植についてのご指摘がありましたが、よく調べたところ、本書についてではなく、朝日新聞で連載中の「日本音紀行」についてのものであることがわかりましたので、コメントは削除させていただきました。

投稿: genki | 2006/08/10 16:59

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