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2005/12/02

iPodと交響曲の関係

一昨日のフェリス女学院大学の公開講座に関連して、もうひとこと。
アップルの山本社長のお話のなかで、とうぜんのことながら大きな部分を占めたのは、「iPod」および「iTMS(iTunes Music Store)」の話題でした。
小生、iTunesは日常的に使っていますが、iPodをもっていないこともあり、いまひとつ積極的に「音楽配信」というものについて考えてきませんでした。iTMSを利用したこともないので、そのうえで、ぼんやりした感想ていどのことを書きます。
もし質疑応答の時間があったら、ぜひ聴いてみたいと思っていたのが、「iTMSではクラシック音楽についてどのように考えているのか」ということ。もちろん、「クラシック」というカテゴリーは存在しますね。小品だけじゃなく、あるていど長尺の音楽もすこし価格を上げて販売しているようです。
「ジャンルによって軽重をつけたりはしていない」という答えが返ってくることは、とうぜん予想されるし、それはそうなんだろうな、と思うんですが……。
小生の心配していることを書きます。ポピュラー系の音楽の場合、個人が自宅で録音したものでも、いまやプロがスタジオで録音したものと遜色ないクオリティの音楽が制作できます。それを、レコード会社を介さずに、iTMSで販売することも可能です(そうした手続きを代行する代理店もあり、日本でももうすぐ営業を始めるようです)。つまり、「録音・プレス・ディストリビュート・著作権管理といった、これまでレコード会社にしかできなかった専門的業務」の意味がなくなるわけです。
「iPodが売れるとCDが売れなくなる」という議論よりも、レコード会社にとって切実なのはむしろこっちのほうで、たとえばかなりの空間を占有する録音スタジオやマスタリング・スタジオとか、プレス工場だとかの稼働率がどんどん下がっていって、会社そのものを維持できなくなってくる──ということのほうを怖れているのじゃないかと考えます。
そうすると、レコード会社はそうした稼働率の悪い空間や部門をどんどん切り捨ててスリム化していくしかしかたありません。そうするとどうなるかというと、あるていど以上の空間を必要とし、個人ではいまのところ不可能といっていいスキルを要求されるような、オーケストラをはじめとする大編成の音楽の録音が、だんだんやりにくく(つまり割高に)なっていくのではないか、ということです。
作曲家や演奏家にとっても、そういった、いまだにレコード会社に頼らざるをえないようなジャンルの作曲や演奏を、避けるようになっていくかもしれません。
「iPodが流行ると、交響曲がなくなる」──っていうのは大げさでしょうか? 「アップルはできあがった音楽を売るだけ」って開きなおられそうですが、そういうところまで考えているのかな、考えていなくていいのかな、とどうしても思ってしまうのです。[genki]

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コメント

iPodと交響曲の関係、これからどうなるのか興味津々です。SP時代、レコードで交響曲を聴くことは難しく、特別なことだった。LPになってから、交響曲は普通に聴かれるようになったが、でもベートーヴェンの第9は1枚裏表に4楽章がうまくおさまらず、どうしても2枚になってしまい、特別な曲扱いされ、レコードで聞かれるチャンスも他の交響曲よりも制限された。CDになってから通しで70分だか入るようになったので、交響曲にたいするメディアのバリアはほぼフリーになり、おかげでマーラーの交響曲が流行する時代がやってきた。「私の時代がやってくる」の予言どおり。(そういえば岩波新書で柴田南雄さんも、マーラー・ブームの直接的な原因はCDの普及と、日本人の余暇の大型化だっていってましたっけね)。でもって今度はiPodをはじめとする各社の携帯メディアの席巻。これって、基本的に音楽の聴き方を昔のSP時代にもどすんじゃないかと思います。交響曲やらオペラにとっては受難の時代ですね。でもちょっと前もそうだったんですよね。音楽史的にいうと、21世紀初頭は「キャラクター・ピースの時代」の再来、と、のちのちいわれるようになるのでしょうか。で、その原因はiPodの普及と、日本人の余暇の小型化(涙)。

投稿: あきおか | 2005/12/04 05:08

コメントありがとうございます。
CDの収録時間って、たしかカラヤンの第九を基準に決められたんでしたっけ?
オーケストラの演奏じたいは、スコアがどんどんデジタル化されれば、パート譜づくりに膨大な費用がかかることもなくなるわけで、これから悪いことばかりとはいえませんが……。
でも、大編成、長尺の音楽(交響曲とかオペラとか)って、たかだか200年ていどの歴史しかない「ヨーロッパの民族音楽」ともいえるわけで、寿命が終わったとも考えられますね。
おっきなホールで何千人も椅子に縛り付けて、いつ終わるともしれない音楽を一方的に聴かせる──という姿が、相対化されていくことは間違いないのではないかと思います。[genki]

投稿: genki | 2005/12/04 09:44

まあハードディスクの容量が大きくなれば、クラシックのオペラや交響曲を丸ごとなんてことも、それほど大変でないように思います。それに、それ以前のメディアがなくなる訳じゃないでしょうし。実際はメディアの大きさよりも、聴く時間の長さではないかと思います。車を長距離運転する人なら、携帯音楽メディアよりもカーステレオ/カーナビで音楽を聴く機会がありそうですしね(最近はハードディスクのカーナビも安くなってきましたし)。都市圏は電車の方も多いでしょうけれど。

私の場合、CDをいちいちMP3にする手間が面倒くさいので、手を出していないということもあります (^_^;; もっともiTuneストアなんかでは、ダウンロードでしか入らない交響曲の音源なんてのもありますけどね。

投稿: たにぐち | 2006/01/09 17:37

谷口さん、コメントどうもです。
まあ、たぶんそのうちに、「ダウンロード」よりも「ストリーミング」が主流になっていくのでしょうね。そうなると、べつにファイル容量は気にしなくてもいいのかもしれませんが、かといって、交響曲やオペラが安泰というわけではないと思います。
「録音」にかぎって考えたばあい、交響曲やオペラなどの大編成の音楽は、やはりプロの技術と資金が必要となりますが、プロのレコード・メーカーにその体力がなくなったときに、さて、どうなるだろうか、と考えてしまうわけですね。

投稿: genki | 2006/01/09 23:53

MP3だストリーミングだ、と言ったところで、それは所詮ハードの問題ですものね。確かにおっしゃる通りで、最終的に音楽となる音を作り出しているのは、それが生音であれ電子音であれ人間なのでありまして、何かしらのパトロンがあるのでなければ、なかなか大規模な音楽実践というのは続きませんよね。

交響曲やオペラは、その演奏に要する人数の問題もありますが、そもそもそういった音楽が現代人の感覚にどのくらい合うのかという問題でもあると思います。例えプロデュースにお金がかかってもそれだけペイされれば良いですが、実際はそうなっていませんものね。

それでも東京にあるオーケストラの数を考えただけでも、結構需要があるのかな、と地方在住の私なんかはうらやましく思えてしまうのであります。

投稿: たにぐち | 2006/01/10 17:31

「西洋クラシック音楽」というものじたいが、18世紀、19世紀という200年間を中心に、ヨーロッパの特定の地域で形成された「民族音楽」である、という見方をするひともいらっしゃるわけで、交響曲やオペラなどもけっきょくは「保護すべき文化財」ということになっていくのかもしれません。

でも、おっしゃるように、最近とくに、少なくとも東京では、日本のオーケストラの集客が増えてるんじゃないか、という証言もあって、この先どっちに転ぶのかは、まだまだ未知数ですね。

投稿: genki | 2006/01/11 07:13

「音楽は世界共通の言語」と言いながら無意識的に「ヨーロッパ音楽帝国主義」に加担していた時代からみると、それを客観的に「ヨーロッパの民族音楽」と観られるようになった余裕ができたことは良いことだと思います。同時にポピュラー音楽も、例の「ワールドビート」とか「ワールドミュージック」がメジャーになるまでは、かなりアメリカに引っ張られていたところがある訳で (←中村とうよう氏の受け売り) 、多彩な見方ができる現在は、そういう点では可能性が開かれているといえるのかもしれません。

一方クラシックの本拠地ヨーロッパでも政府の保護があってオペラが続いているということであれば、それは資本主義社会の中で考えると、すでに「文化財」的扱いになっているのかもしれませんですね。いや、だからダメだっていうことじゃないですよ。アメリカのような、あれほど自称資本主義の総本山的な国だって、「ゲージュツ音楽」に対する思い入れは強いですからね。

投稿: たにぐち | 2006/01/11 13:27

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