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2005/12/12

パソコンはテレコになったか?

以下の文章は、「音楽之友社OnLine」の1コーナー「テーマ別ブックガイド」のために、小生が書いたものです。お題は「デジタル・ミュージック」。このたびそちらから削除されることになり、消えてしまうのももったいないので、こちらに再録しておこうと思ったしだい。
音楽之友社では数年間、パソコン・ソフトのマニュアル本をシリーズとして出していて、小生がその担当をしておりました(だんだん部数が少なくなり、現在はほぼ撤退の状況)。商品の宣伝のために書いた文章ですが、かんじんの商品の名前はいっさい書かれていませんね(苦笑)。宣伝文としてはなっていないかわりに、使い回しはしやすいな、と。
ご笑覧ください。[genki]

* * *

 昔からコンピュータで音楽をつくる人はいた。コンピュータのことを「電子計算機」といっていた時代。その計算機がはじきだした演算結果を音符の順番やリズムなどにあてはめた、どっちかというと“小難しい”音楽──それが「コンピュータ・ミュージック」だった。
 時代は下って、現在では「デジタル・ミュージック」というほうが一般的なようだ。縁のない人には、「どこがちがうの?」ということかもしれないが、じつはここには大きな隔たりがある。
 コンピュータが音楽制作や録音の現場にふつうに登場するようになったのは、1980年代のことだ。最初は「打ち込み」の道具として。MIDIという規格による制御信号によってさまざまな電子楽器を自動演奏させるのが、パソコンの役割だった。そのころからパソコンで打ち込みをやることは「DTM(Desktop Music)」とよばれるようになる。いろんなメーカーや楽器店が「楽譜が読めなくても、楽器が弾けなくても、パソコンがあれば音楽ができる」という謳い文句で、MIDI機器の利便さを喧伝していたけれど、道具は使いやすくなっても使うほうの人間のアタマが変わるわけじゃなし、けっきょくMIDIあるいはDTMはまだまだ一般人には敷居の高いものだった。

 その風潮が変わってきたのは、90年代にはいって、パソコンじたいに音を録音するようになってからだ。磁気テープに記録された音声は基本的に編集することができない。もちろんテープそのものを切り貼りしたり、再生の過程で電子的に音質を変化させるのは可能だが、手間もかかるし、コストや専門技術も必要となる。しかし、パソコンのハードディスクの容量が飛躍的に増え、1分間で10MB以上になる音声ファイルを楽にあつかえるようになって、パソコンに音声を録音し、録音した音声を編集することが可能になった。音声にエフェクトをかけたり、録音した素材を細かく切って並べることまで、ディスプレイ上で簡単にできるようになった。「ぼくの曲、スネア・ドラムはリンゴ・スター、バス・ドラムはジョン・ボーナムが叩いてるんだよね」なんてことが、素人にもできるようになったのだ。
 MP3などの圧縮技術が一般的になったこと、そしてCD-R/RWの普及により市販のCDのリッピングを誰もがおこなうようになったことも、みのがせない。つまり、パソコンは音を録音したり聴いたりダビングしたりするオーディオ機器になったのである。そしてそのころから、「デジタル・ミュージック」という言葉が市民権をえた。
 「コンピュータ・ミュージック」の時代、コンピュータは作曲の道具だった。「DTM」の時代、パソコンは編曲や演奏の道具となった。そして現在、「デジタル・ミュージック」の時代、パソコンは録音、鑑賞そしてコミュニケーションの道具となったわけだ。「コンピュータ・ミュージック」と「デジタル・ミュージック」のあいだに大きな隔たりがある、と書いたのはそういうわけである。

 昔、「計算機」だったコンピュータは、いまはさしずめ「カセットテレコ」みたいなものかもしれない。ラジカセを前に、ギター片手に自作の曲を歌う──誰にでもおぼえのある光景にちがいない。コンピュータはやっとこさ、テレコの簡便さに“追いついた”のだ。そしてこれからが、「コンピュータ・ミュージック」の本当の始まりかもしれない。

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