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2006/02/20

ベルリオーズ/R. シュトラウス『管弦楽法』

数十年に1冊あるかないか、というくらい素晴らしい音楽書を、ここでご紹介できることをしあわせに思います。
現在につながる管弦楽法の土台をつくったといわれるベルリオーズが、1841〜42年にフランスの音楽雑誌に連載し、1844年にそれをまとめて刊行した『現代楽器法および管弦楽法大概論』を、1864年にA. デルフェルなる人物が独訳し、それに近代管弦楽法の職人R. シュトラウスが独自の補足をつけて1905年に刊行したのが、この翻訳書の底本です。
ベルリオーズが書いて、シュトラウスが注を入れてる本、というだけで、なんかこう、血湧き肉躍る感じがしませんか?(同じベルリオーズの本を、チャイコフスキーがロシア語訳したものも存在するらしいです)
さて、こう紹介していくと、R. シュトラウスがいったいどんなふうに注記を入れているのか、気になるところです。シュトラウスの補足した部分は、本のなかでは「波線」であらわされており、ひと目でわかるようになっていますので、それをざーっと追っていくと、やはり「ベルリオーズ以後の楽器の改良などにより、記述が古くなった部分」への補足説明がまず多いようです。初版から60年たってますし、19世紀後半の楽器の改良や発明には、目を見はるものがあったということでしょう。
そして、目をひくのは、「ベルリオーズ以後のすぐれた管弦楽法の実例」が、シュトラウスによって多数示されていること。挙げられているなかで多いのは、やはりワーグナーですね。それから、ベルリオーズ自身が奥ゆかしくも挙げなかった自作を、著者に代わって例に挙げてさしあげてもいます。そして──ああ、そのかわりというわけではないでしょうが──シュトラウス自身の作品も!(自信家の面目躍如たるところですね)
面白いのは、指揮者でもあったシュトラウスが、オーケストラの現場で身につけた勘どころを披露している部分。ひとつ引用してみます(p.40-41)。

◎ベルリオーズの原文

 作曲家がその送付に、ヴァイオリンの練習曲や協奏曲に見られるような上げ弓、下げ弓などの運弓の指示を書き込むのは細かすぎると筆者は思う。しかし、軽さや力強さ、豊かな響きなどがはっきりと必要とされる場合は、「弓先で[原語が記載されているが省略。以下同様]」、「弓のもとで」、「ひとつひとつの音を全弓で」などの指示を書き込んでおくのもよい。[以下略]

◎シュトラウスの補足

[中略]
 羽ペンを握って譜面に挑む、我が同僚たる作曲家の皆さん、上げ弓、下げ弓にはくれぐれも気をつけて! 適切な場所に記された小さな運弓記号のほうが、「元気よく」、「優美に」、「威勢良く」、「ほほえむように」、「反抗的に」、「怒ったように」などと雄弁な言葉で説明するよりも、よほど効果的なことがある。我らが愚直なオーケストラ奏者や、その親愛なる指揮者たちは、大抵の場合こうした言葉の指示にはほとんど注意を払わないものであるから。[以下略]

日本語版の監修は東京現代音楽アンサンブルCOmeTでの活動などで知られる作曲家・指揮者の小鍛冶邦隆さん、訳者はR. シュトラウス研究を専門とする音楽学者の広瀬大介さん。まさに「役者がそろった」理想的な書物だと思います(あ、ちなみに編集担当者は小生ではありません!)。これで、定価12,600円は安い! と断言します。
『レコード芸術』5月号で、この本にかんして、小鍛冶さんと広瀬さんの対談が掲載される予定になっていますので、ぜひ、そちらもご参考に。[genki]

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コメント

作曲家の吉松隆さんが、ご自分のblogでとりあげてくださっていました。

投稿: ■書評など | 2006/03/27 17:18

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