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2006/03/11

現代の音楽展2006〈4〉

◆「オペラ・プロジェクトI」

2006年3月10日(金)19:00 東京文化会館小ホール

◎曲目

くりもとようこ/《発声と様式のモード──新しいオペラへの試み》(2001)

 【作曲・台本】くりもとようこ

 【演出】松本重孝

 【照明】成瀬一裕

 【舞台監督】佐藤公紀

 【出演】白石圭美(ソプラノ)、栗本洋子(ソプラノ)

 【演奏】東京現代音楽アンサンブルCOmeT

     菊地秀夫(クラリネット)、高林美樹(ファゴット)、黒田亜樹(ピアノ)

近藤春恵/オペラ《居酒屋お伽噺》(2005/初演)

 【作曲】近藤春恵

 【台本】峠兵太

 【指揮】小鍛冶邦隆

 【演出】松本重孝

 【照明】成瀬一裕

 【舞台監督】佐藤公紀

 【出演】太田直樹(男/語り手/バリトン)、愛甲久美(女びな/メゾソプラノ)、
     竹澤嘉明(居酒屋のあるじ)

 【演奏】東京現代音楽アンサンブルCOmeT

     木ノ脇道元(フルート)、菊地秀夫(クラリネット)、
     高林美樹(ファゴット)、竹内修(ホルン)、神田佳子(ヴィブラフォン)、
     黒田亜樹(ピアノ)、篠田恵里(ハープ)、野口千代光(ヴァイオリン)、
     甲斐史子(ヴィオラ)、寺井創(ちぇろ)、那須野直裕(コントラバス)

* * *

現代の音楽展2006」の第4日は、同展史上初のオペラ・プロジェクト。

くりもと氏の作品は、プロコフィエフとかストラヴィンスキーを思わせるパブの楽団ふう音楽に乗せて、作曲者自身とソプラノ歌手が、さまざまな発話・発声の「様式」を演じ、2人の演技の差をつうじて、「オペラ」というものの素顔を暴きだす──といった趣向。
一種の「メタ・オペラ」といえるのでしょう。「まあまあ」とか「えーっ」など、それじたいに意味はないけれども会話ぜんたいの意味を決定するような「音声」だけで演じたり、『般若心経』やミサ固有文を下世話で奇妙な節回しで歌うなど、細工はわかるのですが、オペラという、あらゆる意味において、人間の欲望や感性のすべてを織りあげた「ファンタジー」を異化するまでにはいたっておらず、貧相さがきわだってしまって残念でした。

いっぽう、近藤氏の作品は、正面からオペラにとりくんだ力作。北国の居酒屋に飾られたひな飾りの女びなに見とれながら酒を飲むうち、その女びながとつぜん生命を得、ここから連れさってほしいと道行にいざなう──というストーリーを、ドビュッシーを思わせる管弦楽に乗せて、幻想的に描いたもの。
オペラの「ファンタジー性」そのままを、日本のお伽噺と融合させており、文楽の道行を模した演出や、太棹を模したチェロの奏法にも違和感がなく、作曲家の意図はかなり成功していたのではないかと思いました。
ただ、男びなが置き去りにされたままで追いかけてもこず、文楽ではかならず悲劇に終わる道行が成功してしまい、ハッピーエンドに終わるなど、幻想性は豊かだけれど劇的なカタルシスに欠けるストーリーで、その点にはものたりなさを感じました。

やはりオペラというものは、異化するにしても、正面からとりくむにしても、人間存在を根底から揺すぶるような「劇」を内包していなければならない、と思います。その意味では、文楽の音楽的・劇的手法と西洋音楽の管弦楽をたくみに融合した近藤作品は、今後さらに大きな成果につながる可能性をもつものだと思いました。

演奏については、小鍛冶邦隆氏ひきいるCOmeTの手堅くも色彩感豊かな演奏が素晴らしかったし、歌い手ではとくに、バリトンの太田直樹さんが、語り手と演者をスムーズに演じ分けながら、説得力ある歌を聴かせてくれました。[genki]

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