白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」007──アントネッロ(2006/03/25)
◆第7回「ホテルオークラ音楽賞」特別ロビーコンサート
2006年3月25日(土)18:00 ホテルオークラ東京(本館メインロビー)
◎曲目
1.バルトロメオ・デ・セルマ:カンツォン第1番
2.ダラカーサ:パッサカリア
3.ジョヴァンニ・バティスタ・フォンタナ:ソナタ第2番
◎演奏
アントネッロ:濱田芳通(コルネット,リコーダー)、石川かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、西山まりえ(チェンバロ、ハープ)
[付記:アントネッロの演奏の前に、同じく同賞を受賞した小山実稚恵(ピアノ)によるラフマニノフ、スクリャービンの演奏がおこなわれた]
* * *
アントネッロを最初に聴いたのは、たしか1997年の12月、オープン直後の松明堂音楽ホールでのコンサートだったが、以来この名前を聞いただけで、心臓の鼓動が高まるようになってしまった。超絶的なコルネットとリコーダーの演奏と古楽の枠を超えた独自の音楽ビジョンで類のないアーティスト、濱田芳通さん。彼の率いるこのアントネッロこそは、きわめつきのスリリングな演奏と、つねに新しい地平を切り拓いてゆく創造性で世界に誇るべき最先端の古楽グループなのだ。
アントネッロは演目によって歌手や他の器楽奏者を加えたり、近年ではさらにラ・ヴォーチェ・オルフィカ(これも濱田さん率いる合唱団)との共演でも、スケールの大きな圧倒的な音楽世界を展開しているが、今回は基本編成の3人による演奏だった。
さて、将来を嘱望される音楽家を奨励するという「ホテルオークラ音楽賞」は、1996年から続いているそうだが、古楽アーティストとしてははじめてこのアントネッロが受賞したという(彼らの大ファンとしてはわがことのようにうれしい!)。この日はその受賞記念のミニ・ライヴで、3曲だけの演奏だったが、彼らにとってのベーシックなレパートリーを、いつもながら一瞬の隙もない真摯な演奏で聴かせてくれた。
セルマの《カンツオン第1番》では、コクとキレのあるチェンバロとガンバをバックに、ルネサンス・リコーダーが伸びやかに空間を舞っていく。そしてリコーダーがスピードを増すや、それに激しく呼応して熱い演奏を展開するガンバとチェンバロ。この手を汗を握るスリル!
つづくダラカーサでは、西山さんはハープを弾いたが、彼女の演奏はこの美しい響きの楽器からさえも激情をほとばしらせる。そして濱田さんのコルネット。この木管と金管の要素をあわせもったようなユニークな古楽器(演奏は超・難しいという)を濱田さんは自由自在に操って、ときにストレートに、ときにアクロバティックに飛翔し、そして咆哮する。それに石川さんのガンバが、ざっくりと音場をうがつように絡んでいく。このぞくぞくするようなスピード感!
濱田さんの親しみやい楽器紹介で、聴き手がひと息ついたのち、教会ソナタのキリエから作られたというラストの曲へ。これは慈しみの情感にあふれた、たおやかな音楽だったが、ここでも彼らは終始テンションの高い演奏で圧倒させられた。
会場は、絨毯の敷きつめられた(響きの少ない)広大なエア・ボリュームの空間で、正直なところ、アントネッロの音楽や楽器に適した場所とはいいかねたが、それでも彼らの無類の演奏は不変であった。会場を埋めつくした初見参の観客にとっては、新鮮なインパクトだったにちがいない。
濱田さんが挨拶のなかで、フルトヴェングラーの言葉を引用しつつ、「モダン・クラシック的な色メガネを排して、当時の音楽の真実の美を探求しようとしている」といった意味のことを言われていたのも示唆的だった。アントネッロが探求している音楽の真実の美は、恐ろしいほどのパワーを有しているのだ。[白石和良]
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