白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」008──太田光子(2006/03/28)
◆東京オペラシティ ランチタイムコンサート
3月28日(火)12:30 近江楽堂
◎曲目
J. ファン・エイク《笛の楽園》より
1.やぎの足
2.この美しい人魚が
3.夜は何をしようか?
4.詩篇134
5.美しい羊飼いフィリス
6.イギリスのナイチンゲール
◎演奏
太田光子(リコーダー)
* * *
太田光子さんのソロによるランチタイム・ミニ・コンサートは、ヤコブ・ファン・エイクの《笛の楽園》からの曲によるプログラムで、ヨーロッパ各国の民謡メロディによるお国めぐりという楽しい企画だった。
まず《やぎの足》を演奏しながら、舞うように太田さんが登場。もう何年も前のことだが、「蔵の街音楽祭」ではじめて彼女のステージに接したときから、明るく生き生きとした演奏と、視覚的にもまるで妖精が舞っているかのようなその演奏姿にすっかり魅了されてしまった。この日も彼女ならではの、リコーダーを大きな弧を描くように回しながらの演奏で登場するや、部屋の空気を400 年前のヨーロッパへと一変させた。
《やぎの足》はタイトルどおり、ギリシヤ神話を思わせるファンタジックな世界。そしてお国めぐりは、イタリアの《美しい人魚が》、ドイツの《夜は何をしょうか?》、スイスの《詩篇134》、フランスの《美しい羊飼いフィリス》、イギリスの《ナイチンゲール》と続いた。
《人魚》では、穏やかに澄みきった海を思わせる透明度の高さが印象的。誘惑の歌の《夜は……》はちょっとおどけた曲調で、明るくひょうひょうした演奏が楽しいが、夢うつつで聴いていると、とつぜんの超絶的なノン・ブレス・パッセージの一撃でひっくり返ってしまった。これは最高!
《詩篇》は祈りの歌で、素朴で親しみやすいメロディがいかにもトラッド的で心地よい。こういう純朴な表現でも、太田さんは独自の感性の冴えを見せる。叶わぬ恋を歌ったという《フィリス》は、もの悲しさの漂う曲だが、ここではそうした情感に流されすぎない表現が気持ちよく、途中むしろ諧謔味すら感じられるのが面白い。
そしてお待ちかねの、さまざまな鳥の声の聞こえる《ナイチンゲール》。笛の名手たちが腕前を披露してきた曲だから、「さて太田バージョンはいかに?!」と、ファンとしてはつい意気込んで聴いてしまったが、彼女の演奏はこちらの(勝手な)興奮をなだめるように、全体にあえてゆったりとした演奏で、リラックスした大気を演出し、そのなかで鳥たちを本当に自由に囀らせていた。超絶的でありながら同時になんとも自然体の演奏なのだ。
自然体といえば、リスナーの誰もを音楽世界へと誘う各曲ごとの気のおけないコメントもまさにそうで、短時間ではあったが太田さんの魅力を凝縮したような素敵なコンサートであった。[白石和良]
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