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2006/05/03

「古楽特派員テラニシ」006──トイ・ピアノの冒険

Artoftoypiano 「トイ・ピアノ(玩具のピアノ)の演奏を芸術にまで昇華した名盤」と評価されながらも、長らく廃盤となっていたアルバム『アート・オブ・トイ・ピアノ』(テルデック)が、限定盤ながら大手外資系CDチェーンのタワーレコードによって再プレスされ、静かな話題となっている(Amazon.co.jpでは現在、廃盤扱いとなっている)。演奏しているのは、フォルテピアノの名手として知られるメルヴィン・タンの実妹、マーガレット・レン・タン。郷愁を呼び起こす独特の音色や、その演奏の魅力とは──。トイ・ピアノの世界を覗いた。

* * *

Schroeder 「ヨーロッパで19世紀前半に製造された、アンティークのトイ・ピアノなんてのも、あるのかも」──そう期待して調べ始めたのだが、実際にはその歴史は、意外にも新しいものだった。1872年にアメリカでドイツからの移民、アルバート・シェーンフートによって考案されたのが最初だという。彼が設立したトイ・ピアノ専門メーカー、シェーンハット(schoenhut)社は、今も世界のシェアの大半を占める。

 日本では、本物のピアノで有名な河合楽器製作所(静岡県浜松市)が約20年前から販売。それ以前にも玩具メーカー数社が手がけていたが、国内で扱っているのは現在、同社だけ。しかし、今でも「年間2万台前後が売れている」(同社)といい、電子キーボードが普及した現在でも、独特のアコースティックな響きには根強い人気があるようだ。

 マーガレット・レン・タンによる『アート・オブ・トイ・ピアノ』は1997年に発表された。自身も優れたピアニストの彼女は、ここでときに超絶技巧を駆使し、ビートルズからサティ、フィリップ・グラスの作品までをとりあげ、玩具を超えた楽器としての小宇宙を作りあげた。有名なベートーヴェン《月光》などは、調律の微妙なズレから、まるでガムランのように響いてくるのも不思議だ。

Cage_toypianoalbum このディスクに収録された作品にかぎらず、独特の音色は現代の作曲家たちにとくに愛され、いくつもの作品がある。なかでも、ジョン・ケージによる5つの《トイ・ピアノのための組曲》(1948)は、よく知られている。日本では、冨田勲が手がけたアニメ『リボンの騎士』(1968)のオープニング・テーマ曲(歌なしインストルメンタルの初期バージョン)で効果的に使用されていたのが記憶に残っている。

 グロッケンを思わせる独特の音色は、スチールの棒をプラスティックのハンマーで叩くことによって生じる。これに対して、河合楽器製のものは「スチール・パイプを小さな木のハンマーで叩く構造」で、微妙に音色は異なってくる。

Toy_concert 「ピアノの形はしていますが、実はまったくの別物です」と、シェーンハットのトイ・ピアノを取り扱う白川ピアノ調律所(香川県丸亀市)の白川亮藏さん。本来はアンティークを中心に輸入ピアノの修復・調律を手がける白川さんは、スチールの棒を削ったり、ハンダで長さを足したりして調律、ハンマーに本物のピアノにも使う皮を張り、“バージョン・アップ”している。「本当は、ハンマーを含む打弦機構そのものを再設計して取り替えてやれば、まったく新しい発想の楽器にできるはず」と話す。

 「最初は、知人の子供にプレゼントしたのがきっかけ。すごくいい音がするので、自分でも買って、セッションにも使い始めました」と、ステージで実際にトイ・ピアノも使っている若手ピアニストの稲本響さん。「玩具ではなく、あくまで楽器として成立していると思います。もっとも、鍵盤は小さいし、あぐらをかかなくてはならないので、演奏自体は、実はとても大変ですが…」と苦笑する。

 タンは『アート・オブ・トイ・ピアノ』についての『USAトゥデイ』紙のインタビューの中で、「大きいピアノで可能なことならなんでも、トイ・ピアノではよりよく演奏できることでしょう」と言ってのけた。稲本さんも「多くの人にとっては、もしかしたら本物のピアノよりも身近な存在かもしれない。そんな“何ができるかが想像できる楽器”で、想像を絶することをやるから面白い。まだまだ可能性は、あると思いますよ」と語っている。[寺西 肇]

 

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