白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」009── タブラトゥーラ with SPECIAL GUESTS(2006/03/30)
◆お花見ライヴ2006 in 石響
2006年3月30日(木)18:30 四谷・コア石響
◎演奏
タブラトゥーラ with SPECIAL GUESTS
タブラトゥーラ:つのだたかし(リュート、ラウタ、ウード)
田崎瑞博(フィドル)
江崎浩司(リコーダー、ショーム)
近藤郁夫(パーカッション、ダルシマー)
山崎まさし(ビウエラ)
ゲスト: 波多野睦美(歌)
アリエル・アッセルボーン(ギター、歌)
早坂紗知(サックス)
◎曲目
・第1部 1.カルミナ・ブラーナ(13世紀ドイツ)
2.コンパス(山崎まさし)
3.花よりもなお(山崎まさし)
4.紅い花(江崎浩司)
5.桜ちるちる(田崎瑞博)
6.ごわごわ(田崎瑞博)
7.夜来る人(つのだたかし)
8.ファティマ(つのだたかし)
9.スカジャン(江崎浩司)
10.トロキルス(江崎浩司)[演奏:タブラトゥーラ]
・第2部 11.小さな空[つのだたかし&波多野睦美]
12.3月の歌[〃]
13.花の街[〃]
14.ブレノスアイレスのタンゴ[アリエル・アッセルボーン]
15.アルゼンチンのサンバ[〃]
16.ボレーノ(?)[〃]
17.エル・ソンブレロ[タブラトゥーラ with 早坂紗知]
18.忘却[〃]
19.フラメンコ映画『ベンゴ』より[〃]
(第2部の曲名は筆者の聞き書きによるものです)
* * *
タブラトゥーラのステージは、昨年秋のハクジュ・ホール以来である。そのハクジュ・ホールのコンサートは昔からの音友と聴いたのだが、トラッドやフォーク・ロックに詳しく、辛口の耳をもった彼が、終演後に開口一番、「タブラって名前は知っていたけれど、こんなに凄かったのか!」と狂喜していた。ハクジュのような響きのいいホールでのタブラもまたよいが、しかし、今回の満員のコア石響、熱気ムンムンの地下室で聴いた音は、冒頭から、ホールでのパフォーマンスを数段上回るようなど迫力に圧倒されてしまった。
まず、中央にデンとかまえた近藤さんが、ガッツの入ったパーカッションを素晴らしく無遠慮に(もちろんホメ言葉です)叩きまくり、これにあおられるように、つのだ団長をはじめとする名手たちが、熱いインタープレイを繰り広げていく。タブラだけで演じられた第1部は、(これから公開される映画の音楽=3という注目曲も聴けたものの)基本的にはお馴染みの自作のレパートリーが中心だったが、やはりこのような熱い演奏こそ最高である。
今回は、つのだ団長の還暦記念を兼ねたお祝いライヴで、第2部は曲目・ゲストとも、聞いてのお楽しみとなっていた。さて、まず登場したゲストは、タブラのステージでは常連の波多野さん。しかし今回はグループをバックに歌うのではなく、つのださんとのデュオで、武満徹などの日本語の歌を聴かせてくれた。これらも、つのだ・波多野のデュオ・ライヴでは歌われているお馴染みの曲だが、呼吸のぴったり会ったつのださんの伴奏での波多野さんの落ちついた日本語の歌声は、なんど聞いても絶品である。
次にアルゼンチン出身のギタリスト/シンガー/ソング・ライターのアリエル・アッセルボーンが登場。筆者ははじめて彼を聴いたのだが、スリリングなギターを弾きながら、哀感の歌声でシャウトするそのパフォーマンスの魅力にはまいってしまった。今回はソロでのパフォーマンスだったが、いずれ可能ならばタブラとの共演をぜひ見てみたい。
そしてふたたびタブラのメンバーたちが登場して演奏を始めると、背後から生きのいいサックスの音が……細身の女性が、入魂のサックスを吹きながら通路から入ってきた! 誰あろう、往時のメンバーの早坂さんである。この一瞬で、20年(?)の時が戻ってしまった。あのころと少しも変わらない、若々しいタブラと早坂さんが戻ってきたのだ。ライヴのクライマックスでは、つのだ団長が空中回転の技を見せてくれた、あのころのタブラである。こんにちのタブラの繊細な音楽性は格別だが、往時のような破天荒な迫力にあふれたタブラも、やはり素晴らしかった。民族音楽の滋養のたっぷりしみこんだ独自のジャズ・サックスをずっと吹きつづけている早坂さんこそは、やはりタブラには最適なアーティストのひとりで、これからも機会があればぜひ共演を聴かせてほしいと心から願うばかりである。
終演後には、団長の還暦記念の立食パーティがおこなわれ、参加したファンとしては夢のように楽しい一時だったが、その場での団長みずからのみごとな包丁さばきと、メンバーから団長へ贈る「感謝の言葉」の抱腹絶倒のパフォーマンス(田崎さん脚本、江崎さん演出とか)は、パーティの参加者だけが見聞きするにはあまりにもったいないものであった。
パワー全開のタブラにふたたび接して喜びのあまり、個人的には、上記のとおり早坂、アリエルといったアーティストとの共演や、さらに(今回もライヴでも冒頭で演奏された)バンドの出発点である中世音楽の演奏にもふたたびとりくんでいただけたら……などといった欲ばったことをつい考えてしまったが、ともあれ通常の古楽の枠にも民族音楽の枠にもおさまりきらない、独自の高度なアコースティック・ミュージックを続けるタブラトゥーラは、世界的にも類のない存在としかいいようがない。分類不可能な音楽ならではの困難もあるだろうが、これからもさらに活躍していただきたいし、そのためにもまずライヴに足しげく通って応援することこそが、われわれファンの勤めだろう。[白石和良]
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