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2006/09/10

白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」013──MOG(2006/09/06)

◆MOG LIVE(モグライブ)
 2006年9月6日(水)19:00 BAR BOON(新宿)

◎曲目
 第1ステージ:イパネマの娘/男と女/十字路/平和な愛/夏/ベサメ・ムーチョ
 第2ステージ:ヤードバード組曲/ミーン・トゥ・ミー/キーラルゴ/タブー/ブルース・ストロガノフ
 第3ステージ:ブランジェ・アモール/ジンジ/夏の思い出/ティコティコ/G線上のアリア(J. S. バッハ)/グリーンスリーヴズほか
 アンコール:ヴァケイション
  ※曲名は筆者の聞き書きによるもので、文責は筆者にあります。

◎演奏
 MOG:小池吾郎(ヴァイオリン、編曲)、諸岡典経(ウッドベース)、上田美佐子(ヴィオラ)、高橋真二(ヴァイオリン)

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 MOG(MUSIC OF GORO)は、ヴァイオリンの小池吾郎さんを中心にして、オーケストラ・シンポシオンなどでおなじみの俊英弦楽器奏者たちが集まり、ボサ・ノヴァからジャズ、そしてオリジナル・ミュージックまでを聴かせてくれる類のないアコースティック・アンサンブルだ。ひさびさのライヴの今回は、MOGとしては最小編成の4人によるもので、以前にも演奏したことのある新宿のBAR BOONでの、リラックスした雰囲気の楽しいライヴであった。

 ステージ1はボサ・ノヴァ特集。冒頭の有名な《イパネマの娘》からして、全員の力強い弦の音がすごい。まったくのノン・マイクの演奏にもかかわらず、まるでアンプを通しているかのような押しの強いパワーが痛快だった。今回の編成での肝は、よく歌う小池さんのヴァイオリンとドスの効いた諸岡さんのベースの対比の妙で、それに上田さんのヴィオラや高橋さんのヴァイオリンが表情豊かに絡んでいく。大半の曲が途中からジャズ的な崩しの演奏に突入していくかたちだが、通常のジャズ演奏とはひと味違う、一種ストイックな感覚が印象的だ。よい意味での古楽〜クラシック畑のアーティストらしい個性的なサウンドと思う。

 スロー・テンポでムーディに演奏された《男の女》のような曲でも、各人の音があくまでも明快なのも素敵なところで、集団に個性が埋もれないというコンセプトは、まさにオーケストラ・シンポシオンそのものだ。ステージ1では、曲の中盤で全員がグーッと盛り上がる《ベサメ・ムーチョ》が最高だった。

 ステージ2では、チャーリー・パーカーの《ヤードバード組曲》や、《ミーン・トゥ・ミー》といったジャズ・ナンバーで始まったが、《ミーン……》の展開部で小池さんと諸岡さんが《展覧会の絵》から《笑点のテーマ》(?)まで、お馴染みのメロディを即興で弾きあってバトルを繰り広げたのは抱腹絶倒。小池さんはステージ・トークのなかで、このグループの意義のひとつとして、仲間といっしょに演奏できることの喜びを語っていたが、MOGならではのこうしたパフォーマンスからはまさに演奏の楽しさがダイクレトに伝わってきて、聴き手の誰をも幸福にしてしまう。

 このステージ2ではほかにも、弦の重なりによる音が圧巻だった《キーラルゴ》や、ニュアンスの豊かな《タブー》、そして諸岡さんの強靱なベースをバックに小池、上田、高橋さんのそれぞれ個性的なブルース演奏が展開されるオリジナル曲《ブルース・ストロガノフ》(16小節のブルース、ブルースの大盛りという意味とか)などどれも聴きものだった。この《ブルース・ストロガノフ》での、彼らには珍しく「ちょいワル」(?)のフィーリングも個人的には大注目で、今後の方向のひとつとしてこうした楽曲も期待したい。

 さて、ここまでのようにボサ・ノヴァやジャズを心地よく聴かせるMOGは、野暮な分類をすればイージー・リスニング・アンサンブルといえるのかもしれないが、仮にそうだとしても彼らの音楽は、軟弱さや内容の希薄さからはおよそほど遠い。いうなれば、MOGは「フル・ボディでガッツのあるイージー・リスニング・アンサンブル」という稀有な存在なのだ。

 ステージ3では、MOGはさらにまた、単純に分類不可能な超アコースティック・アンサンブルとしての側面をみせてくれたのだった。このステージは、小池・諸岡さんの2人だけのデュオによるインプロヴィゼーション演奏に始まり、高橋さんと上田さんがそれぞれ美しいソロを聴かせる2曲のボサ・ノヴァ・ナンバーへと続いていったが、それに続く《夏の思い出》でMOGならではの音楽が炸裂した。だれでも知っているあの有名な日本の歌のメロディをめいっぱいエモーショナルに演奏しながら、しだいに崩しを入れていくのだが、これがよくあるジャズ的な流れにはならずに、各人の丁々発止のやりとりをしながら、なんとも不思議なアコースティック・ミュージックをつくりだしていたのだ。

 続く《ティコティコ》での全員のスリリングな演奏も圧巻だった。そして、ついに出たバッハの《G線上のアリア》では安定感のある重厚なサウンドがみごとだったが、MOGの音は重厚であってもけっして鈍重などではない。そしてラストは嬉しくも、有名な英国トラッドの《グリーンスリーヴズ》による変奏曲で、ピッツィカート奏法なども多用した自由な雰囲気の出だしから魅力的だったが、とくに中盤で全員が走りだしたときは総毛立ってしまった。なんというスリル!

 そしてアンコールはもちろん、MOGのテーマ曲といってもよい往年のヒット・ナンバー《ヴァケイション》(「待ち遠しいのは夏・や・す・み」というコニー・フランシスのあの歌)。この曲での「弾ける弦」の楽しさはまさに彼らの音楽のショーケースとしてふさわしいものだ。

 今回のライヴではすべての曲で、メンバー間のインタープレイがさらに深化した印象で、それによってMOGならではユニークなサウンドや楽しさをもさらにパワーアップしたかたちで届けてくれた一夜だった。[白石和良]

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