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2006/10/21

いたしかねる

【メモ】「blooming*sound*blog」に2004/09/08 03:08 PM投稿の「いたしかねる」と2004/09/15 11:14 AM投稿の「とんでもない!」を、2本まとめて再録。「バイト語」つながりですね。「いたしかねる」は、たしかに便利な言葉で、思わず使っちゃいそうになる場面があることに、その後気づきました。やはり、会社にかかってくるクレーム電話にたいして。逆に「とんでもない」は、使いたいと思ってもうまく使えない。「オトナ」になりきれてないんだな、きっと。[genki]

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■いたしかねる

 父が仕事で海外に行くことになった。父はぼくと同じプロバイダを使っているのだけど、「向こうでメール使うには、どうしたらええんや」と電話がかかってきた。このひとはApple 512Kというマシンから始めた筋金入りの「マカー」なのだが、インターネット関連の接続設定など、すべて息子にやらせる(だからぼくもめんどくさいので自分と同じプロバイダに加入させたのだ)。「ったく……」ぶつぶついいながらも、ホームページを調べる。どうもこのプロバイダにはローミング・サービスがないらしい。ということは、やっぱり無理なのかなあと思いながらも、いちおうメールで問い合わせることにした。

 数日後、メールが届く。「申し訳ございませんが、当社のサービスでは、海外からのご利用は出来兼ねてしまいます」──「出来兼ねる」? いや、海外からの接続ができないということは予想していたからいいんだけど、どうしてこういう書き方になるのかなあ。「当社のサービスでは海外からの接続はできません」これだけでよいではないか。この人はこのほうが「ていねい」だと思ってるのだ。最近話題の「バイト語」に「〜しかねる」というのは入っていたっけな。

 そういえば、ある店でなにかを頼んだときに、そこのバイト君が「いやー、そういうことは当店ではできかねちゃうんですよねー」と答えた。彼は「それはできない」といっているだけなのだが、お客様にたいして「ていねいな応対」を心がけるあまり、こういうことになるのだろう。

 だいたい、「〜しかねる」という表現には、「わたしはそれをしたくない」という拒絶のニュアンスが含まれる。時代劇などで主君をないがしろにする密議に巻き込まれた清廉な家老が「拙者、そのような破廉恥な真似はいたしかねる!」といって憤然と席を立つ──このような光景が目に浮かぶことばである。

 書店のバイト君やプロバイダのサポート担当者のばあいは、それに「〜してしまう」という表現が加わっている。ここまでくるともうなんだかわからない世界だ。あえて訳せば「そういうサービスはしたくないって上がいうから、お客さんに伝えているだけなんで、怒らないでくださいよ。雇われてるぼくとしてはしかたないんですよ。そこんとこ、わかってくださいよ」って感じか。もちろん彼らはそんなこと考えてないのだろうが、結果的には「ていねい」というよりもむしろ「失礼」な感じがしてしまうんだよなあ。

 バイト語では「10,000円からお預かりします」というのが有名だが、それがかなり話題になったからか、最近は変種が出現しているようだ。昨日はタリーズ・コーヒーで「2,000円でお預かりします」と言われた。「で」って……思わず「パンチdeデート」を思い浮かべたが(古くてスマソ)、どうして「2,000円(を)お預かりします」と言わずに、わざわざ珍妙なほうを選択するのだろうか。

 拙者、納得いたしかねる![木村 元]

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■とんでもない!

 「いたしかねる」に続いて、バイト語関連で。っていうか、このあたりは、もしかすると「オトナ語」に入るのかな?

 ぼくの使っているPHSの会社に問い合わせの電話をした。うっとりするような声のおねえさんが「○○でございます」と応対してくれる。ひとしきり質問をして、期待どおりの答えが返ってきて、うーん、満足(アタシ、女性のきれいな声に弱いのです……)。そこでやめておけばいいものを、もうちょっとこのおねえさんとお話がしたくって、「すみませんが、もうひとつお訊きしてもいいですか」──すかさず、おねえさん、(あくまでもにこやかに)「とんでもございません!」 え? だ、だめなの?……なして?

 いや、彼女だって、「もうこれ以上、質問はしないでくれ」といったわけじゃない(と、思いたい)。きっと、ぼくの質問のなかにこめられたニュアンス──「お忙しいのに、いくつも質問をしてしまってごめんなさい」という気持ちに、「とんでもございません。いくつでも質問をしてくださってけっこうですよ」と答えてくれたにすぎないのだろう。だから、こちらも嫌な気持ちにはならなかったのだが、やっぱり「マニュアルどおり」の応対をすることに馴れてしまっているのだな、とちょっとさみしい気持ちがした。

 でも、敬語とか謙譲語とか……日本語ってむずかしいですよね。おねえさん、がんばってね。[木村 元]

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