シュトイデ弦楽四重奏団による大島ミチルの世界[2006/11/20|アサヒビールロビーコンサート]
◆第100回アサヒビールロビーコンサート
「シュトイデ弦楽四重奏団による大島ミチルの世界」
2006年11月20日(月)18:45 アサヒビール本社ロビー
◎曲目
[第1部]モーツァルト/ディヴェルティメントK138
大島ミチル/For the East No.1〈生命〉
同/For the East No.2〈故郷〉
同/For the East No.3〈祭り〉
同/For the East No.5〈交通渋滞〉
同/The woman came to the forest
[第2部]シューベルト/断章
大島ミチル/NHK朝の連続テレビ小説『純情きらり』テーマ《きらり》
同/NHKスペシャル『生命──40億年はるかな旅』テーマ《Planet of Life》
同/映画『極道の妻』メインテーマ
同/映画『お墓がない』メインテーマ
同/映画『北の零年』メインテーマ
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テレビ、映画などの音楽をフィールドに、質量ともにトップクラスの活躍を続けている作曲家・大島ミチル、はじめての「個展」。ウィーン・フィルのもっとも若いコンサートマスター、フォルクハルト・シュトイデ率いるクアルテットを迎え、ちょうど100回めのこのロビーコンサートにふさわしい華やかさでおこなわれた(企画:小沼純一)。
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私事にわたるが、20年ほど前、大学のグリークラブで歌っていた時分、ミチルさんの男声合唱組曲《御誦〈おらしょ〉》を歌ったことがある。男声合唱とパーカッション(合唱は手拍子や足踏みなども担当する)を組み合わせ、原初的なリズムを強調したこの作品は、男声合唱のジャンルのなかでもひじょうに男性的なイメージがあり、端的にいって「かっこいい」作品の代表格で、当時の大学グリークラブのあいだでは、一種ブームといっていいほどの人気をはくしていた。
ぼくたちも、時流にのってこの難曲に挑戦。終演後のレセプションに来てくださったミチルさんを見て、はじめて妙齢の(しかもお世辞ぬきで美しい!)女性であることを知り、たいへんびっくりした。
その縁で翌年、わが団の団歌を委嘱。そのときのミチルさんとの連絡役を買ってでて(というより他の者を押しのけて)、親しく会話をさせていただいたのは、よい思い出となっている。
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その当時も、そしてその後映像音楽の分野でどんどん名をなしていってからも、ミチルさんの音楽には、万人の心をうつポピュラリティとシリアスさが同居した魅力が感じられた。『純情きらり』にしても、NHKスペシャル『生命』にしても、ひじょうに聴きやすくメロディアスでありながら、たしかに自分の心の奥底に触れ、ゆすぶるようなところがある。表面的な親しみやすさでは、けっして終わらないのだ。それはなによりもまず、彼女の人間の真摯さ、深さからくる、偽りのなさではないかと思う。
だから、彼女の弦楽四重奏曲が存在すると、小沼さんから教えてもらったときには、驚きとともに「やはり」という納得も感じた。劇伴という、ある意味自分を殺してクライアントのオファーにこたえる仕事においても、これだけ自分の人格を表現できるひとだ。純音楽はきっと素晴らしいにちがいない、と思っていたのである。そして、ぜひ実演で聴いてみたい、と熱望した。
そしてこの夜、それが実現した。それも、ウィーン・フィルのメンバーという最高のサポーターを得て。
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シュトイデ弦楽四重奏団の音、アンサンブルの素晴らしいこと! そして、かれらを起用したミチルさんの自負も、そこには感じられた。もともとクアルテット用に作曲された《For the East》はもちろん、後半の編曲ものも、緊張感と構成感をあわせもち、弦楽四重奏というジャンル特有の精神的な魅力をあたえられている。これは、彼女がこのジャンルを愛し、弦楽四重奏曲の歴史をしっかりとふまえたうえで、作曲・編曲にとりくんだことをよくあらわしている。「自負」というのはつまり、「歴史につらなる者」としてのみずからの立ち位置をよく認識し、そのジャンルの最高のアンサンブルをもって響かせるにたる音楽を書いているという自意識が、彼女にあったということである。
また、ポピュラー系の作曲家が自作を(多くの場合、専門の編曲家を使って)クラシカルなフォーマットにトランスクリプトすることはよくあるが、彼女の場合、編曲といっても、作曲と同じ重みをもっていることがよくわかる。小沼さんのことばだが、「コンポーズとソングライティングの違い」。彼女自身の手になるこの編曲は、まぎれもなく「コンポーズ」の創造性を感じさせるものだった。
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いつだったか、ある雑誌にミチルさんを紹介して、「私のお気に入りの1曲」というようなインタヴューに答えていただいたことがある。彼女の答えは、「フランクのヴァイオリン・ソナタ」。V. シュトイデ氏の豊かなヴァイオリンの音色を聴きながら、たぶんいちばん好きなこの楽器のために、この夜のプログラムを準備し、編曲をしているときのミチルさんの幸福感を追体験するような気がした。満員の聴衆も、おそらく同じ気持ちを共有していたことだろう。[木村 元]
◎大島ミチルホームページ http://www.michiru-oshima.com/
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