« 「古楽特派員テラニシ」014──ピリオド楽器による「第九」 | トップページ | 折り目ただしい演奏のたいせつさ──東京シンフォニエッタ(2006/12/15|東京文化会館小ホール) »

2006/12/14

新版 中世・ルネサンスの社会と音楽


◇今谷和徳[著]
 四六判・上製/348頁/装丁:下川雅敏
 定価3,675円(本体3,500円+税)/ISBN4-276-11053-X
 2006年11月 音楽之友社刊

 + + + + + + + + + +

 「待望の書」といういい方はよく目にしますが、その表現がほんとうにふさわしい書物は、じつはそれほど多くありません。その数少ないひとつといってよい書物をご紹介させていただきます。

 1983年(わたしが大学にはいった年!)に初版が刊行された旧版『中世・ルネサンスの社会と音楽』(音楽之友社)は、古楽にかんして日本語で読める文献が少なかった当時にあって、まさに愛好家のための「バイブル」として愛読されつづけました。同書はもともと全音楽譜出版社がだしていた『リコーダー』という雑誌(懐かしい!)に連載されていた原稿をまとめたもので、そのころの(わたしの場合は大学にはいってから古楽にはまりましたから、数年の差がありますが)古楽愛好家の、なんだか秘密結社か地下組織めいた雰囲気とともに思い出される本でもあります。

 爾来20余年をへて、進展いちじるしい古楽研究の最新の成果をもとに、旧版では雑誌連載のまとめという性格上、トピック主体の章立てだったのを、時代・地域を主軸に構成しなおし、完全に「書き下ろし」というかたちで改版されたのが、この『新版 中世・ルネサンスの社会と音楽』です。

 編集者として、みずからの愛読書の「新版」をつくることができる──というのは、それほどしばしば体験できることではありません。新版の構想からほぼ2年半。その間、毎月仙川の喫茶店で著者と会い、1章ずつ手書きの(!)原稿を受けとり、その場で読んで感想などをお話しする、という1年間があり、また著者の所有する膨大な資料のなかから図版を選んだり、家系図や地図の原稿をいただいたり、といった完成にいたるまでの1年間がありました。たいへんはたいへんでしたが、手仕事の醍醐味を味わうことのできた2年半でもありました。

 打ち明ければ、最後の最後でいちばん苦労したのは索引づくり。とくに固有名詞の異名表記ですね。ジョヴァンニ・デ・メディチが教皇レオ10世になるのは序の口で、フィリップ・ル・ボーの長男シャルルがスペイン王カルロス1世になり、その後神聖ローマ皇帝カール5世に……等々(日本語ならではの問題といえますが、固有名詞のカタカナ表記は現地読みにしたがう、という大原則にのっとっています)。それに加えて、王侯貴族はファーストネームで立項するけれど、イギリスの場合はファミリーネーム。また、大芸術家(ミケランジェロ、ラファエッロ、レオナルド・ダ・ヴィンチなど)はファーストネーム、でもなぜかボッティチェッリはファミリーネームだったり……(いまだに確たる法則性がわかっているとはいえません)。

 旧版をもっているひとも、そうでないひとも、古楽愛好家や西洋史の好きなひと全員におすすめしたい名著です。[genki]


▼今谷和徳の本(by Amazon.co.jp)

|

« 「古楽特派員テラニシ」014──ピリオド楽器による「第九」 | トップページ | 折り目ただしい演奏のたいせつさ──東京シンフォニエッタ(2006/12/15|東京文化会館小ホール) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29830/13041448

この記事へのトラックバック一覧です: 新版 中世・ルネサンスの社会と音楽:

» 「新版 中世・ルネサンスの社会と音楽」 読む前のひとこと [Signals from Heaven]
音楽学者の今谷和徳氏は、約10年周期でルネサンス音楽に関する本を書いている。80年代の「中世・ルネサンスの社会と音楽」、90年代の「ルネサンスの音楽家たち」、そして、先月出版されたばかりの「新版 中世... [続きを読む]

受信: 2007/01/02 07:40

« 「古楽特派員テラニシ」014──ピリオド楽器による「第九」 | トップページ | 折り目ただしい演奏のたいせつさ──東京シンフォニエッタ(2006/12/15|東京文化会館小ホール) »