白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」018──オーケストラ・シンポシオン[2008/01/27|東京文化会館小ホール]
◆日本モーツァルト協会1月例会(通算第495回例会)
2008年1月27日(日)14:00開演 東京文化会館小ホール
◎演奏
指揮/チェロ:諸岡範澄
オーケストラ・シンポシオン:
Flauti:菊地香苗・木下恵子
Oboi:三宮正満・森綾香
Corni:下田太郎・木村隆
Fagotti:永谷陽子・鈴木禎
Violini 1:桐山建志・高橋真二・鍋谷里香
Violini 2:大西律子・長岡聡季・小池五郎
Viole:諸岡涼子・深沢美奈
Violone:諸岡典経
◎曲目
[第1部]
1.交響曲ト長調K110
2.交響曲イ長調K134
[第2部]
3.セレナード 二長調K204(Vn:桐山建志)
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まるでセッションのような自発性と躍動感にあふれた演奏を展開する最先端の古楽オーケストラ、オーラケストラ・シンポシオンは、うれしいことに日本モーツァルト協会にたびたび招聘されて演奏している(蛇足ながら、協会の例会といっても、基本的には通常のコンサートと変わりなく、筆者のような非会員でも、チケットを購入すれば聴くことができるのはありがたい)。今回はシンポシオンの特質がもっともよく発揮される、初期の比較的小編成の交響曲とセレナードで、しかも全3曲とも諸岡範澄さんがチェロの弾き振り!という喜ばしいかぎりのステージだった。
今、諸岡さんの「弾き振り」とつい書いてしまったが、実際には、諸岡さんは要所要所で指示を与えるものの、あとは完全にシンポシオンの一員としてみなといっしょに演奏に専念している印象であった(いうまでもないかもしれないが、諸岡さんはみなと同じく客席を向いて座っていた)。つまり事実上、指揮者のいないアンサンブルに近い印象であったが、じっさい、シンポシオンならではの自発的な演奏の素晴らしさをあらためて強く感じさせたコンサートであった。
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2つの初期シンフォニーはともにアレグロ/アンダンテ/メヌエット/アレグロという4楽章の構成で、第1楽章などでの管楽器の活躍とか第3楽章のメヌエットといった正月にふさわしい(?)華やかな要素があるものの、腕達者なメンバーたちの火花を散らすようなソロ楽器の応酬を期待するにはいささか穏やかな曲想だったのだが、だからこそというか、逆説的にというか、もっとも静かな第2楽章のアンダンテにシンポシオンの真髄をまず見たように思った。こうした楽章にありがちな平坦で退屈な印象はそこには微塵もなく、各人の自発的で個性的な演奏がきわめてエモーショナルかつ起伏に富んだ表現を生み出していたのだ。
もちろんアレグロ楽章での全力疾走するようなスリルや、メヌエットでのじつに歯切れのよいリズムでの小気味よい表現などもたっぷり堪能できたし、メヌエットでもとり澄ましたような演奏ではまったくなく、楽曲が本質的に内包しているような民族音楽的な親しみやすさを強く感じさせて、印象的だった。そして最終楽章での目の覚めるように鮮やかな、それでいながら少しも威圧的に感じられるところのない演奏も、まさに自発的な自由さを身上とするシンポシオンの面目躍如といえるものだった。加えて、とくにK110での桐山さんのヴァイオリンの尋常ならざる美しさも圧巻であった。
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第2部のセレナードは全7楽章の静かな大曲だったが、ここではメンバーの名手たちによるソロを中心にした聴きどころがたくさんあった。スカッと飛ばすような第1楽章に続いて、第2楽章では桐山さんの繊細なヴァイニオリン・ソロが絶品。第3楽章ではこの桐山さんのソロと大西さんたちの受け答えも聴きものであった。
第5楽章では三宮さんの天国的に美しいオーボエ・ソロが、ステージのいちばん奥から響いてきた。不適切な形容かもしれないが、世俗の出来事をひとり超越したようなまでの響きだったのだ。さらに、続く楽章での歯切れのよいフルートなどもじつにみごとであった。
アンコールはK215の行進曲。ここでの弾むような自由な躍動感の素晴らしさはなんと形容すればよいのだろう。文字どおり、ひとりひとりの音、ひとつひとつの音に生気がみなぎっていて、シンポシオンの真髄をまたも堪能させてくれたのだった。[白石和良]
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