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2008/03/01

白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」022──メディチ・ブラス[2008/02/24|近江楽堂]

◆アントネッロ外伝:メディチ・ブラス
 2008年2月24日(日)19:15 近江楽堂(東京・初台)
 ※2/23には鷹の羽スタジオにおいて同一プログラムでおこなわれた。

◎演奏:アントネッロ
    濱田芳通(指揮/コルネット/リコーダー)
    春日保人(バリトン/フルート)
    宮下宣子/白濱俊宏/角田正大/角田実花/小林明(サクバット)
    橋本晋哉(セルパン)
    古橋潤一(ドルツィアン/リコーダー)
    西山まりえ(オルガン)
    わだみつひろ(パーカッション)

◎曲目:
[第1部]
 1.ブルゴーニュ人はかく語りき(作者不詳)
 2.ラ・スパーニャ(アンドレア・ピコット)
 3.ラ・ミ・ラ・ソ(ハインリッヒ・イザーク)
 4.運命の女神(イザーク/ビュノワ/ジョスカン/アグリコラ)
 5.犬(ハインリッヒ・イザーク)
 6.ラ・モッラ(ハインリッヒ・イザーク)
 7.パッレ・パッレ・パッレ(ハインリッヒ・イザーク)
 8.とある農夫が息子に嫁をもらった(ハインリッヒ・イザーク)
[第2部]
 1.恋する女&レオンチェロ(作者不詳)
 2.ラ・スパーニャ(グリエルモ・エブレオ・ダ・ペーザロ)
 3.エヴァの追放された子らは(ハインリッヒ・イザーク)
 4.インスブルックよさらば(ハインリッヒ・イザーク)
 5.ラ・ラ・ヘー・ヘー(ハインリッヒ・イザーク)
 6.コリーノの人生(グリエルモ・エブレオ・ダ・ペーザロ)
 7.スカラメッラは戦争に行く(ロワゼ・コンペール/ジョスカン・デ・プレ)
 8.こおろぎ(ジョスカン・デ・プレ)

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 今回のアントネッロは「外伝」だった。これは「特別編成・企画」という意味だろうか。かねてからいろいろなかたちで共演してきたサクバット・アンサンブル、ブルーライノのメンバーをはじめとする腕達者な古楽器の管楽器奏者が多数特別参加した編成での、「メディチ家縁のルネサンス・ブラス音楽特集」であったのだ(いつもはコア・メンバーのガンバの石川さんは不参加だったが、これは曲目上とうぜんかもしれない)。

 じつは、昨年秋に名古屋でブルーライノと濱田さん、西山さんの共演による斬新な演奏を聴いたことがあって、ぜひ東京でもやってほしいと願っていたので、その夢が早くも実現したと思ったのだが、実際はそれどころではなく、想像をはるかに超えた楽しさ炸裂のステージだった。

 まず曲名からして《パッレ・パッレ・パッレ》とか《ラ・ラ・ヘー・ヘー》といった思わず微笑んでしまいそうな曲名が並んでいる(これらの作曲者は、メディチ家のロレンツォ豪華王のお抱えの音楽家、ハインリッヒ・イザークで、イザークの作品をこんなにまとめて聴ける機会もめずらしいと思う)。さらに、あの愉快なジョスカン・デ・プレ作の《スカラメッラは戦争に行く》も! 会場の近江楽堂は定員100名ほどの小さな場所で、今回のような出演者の数はこことしては最大級だが、つり鐘状の高い天井があるので、音響的にも期待できる。

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 さて高まる期待のなか、まず演奏された《ブルゴーニュ人はかく語りき》。濱田さんのコルネットをはじめとするブラス群がファンキーに咆哮するカッコいいこの曲で、一挙にアントネッロ・モードの世界に連れていかれてしまった。アントネッロならではのファンキーなノリは、ソウルフルなウネリや、気のおけないフレンドリーな感触などを強く感じさせるもので、同時にこの曲のもつ諧謔味もよく表しているようだった。続く《ラ・スパーニャ》は一転して静粛な曲で、西山さんの明快なサウンドのオルガンを従えた濱田さんのコルネット・ソロでその抜けのよい響きにウットリ。そして《ラ・ミ・ラ・ソ》では、濱田さんの吹き振り(指揮とコルネット演奏)のリードでブラス群がさらにいちだんとダイナミックに鳴り響いた。

 先に記した高い天井の効果もあってか、まぢかで聴いても音がきつかったり、飽和したような感じは皆無で、じつに快適なサウンドだった。名手たちの手腕によって、古楽器のブラス群が、それぞれの楽器の柔和なサウンドを生かしながら、ダイナミックな音楽を織りなしているので、モダンなブラス・バンドの音楽とは違うのだが、それでもある点ではやはり「ブラス・バンド乗り」の楽しさの曲が多かったのだ。

 また先の《オルフェオ》でも全編のサウンドを効果的に彩っていた、わださんのパーカッションが今回も大活躍した。今回は2つのネイカー(小型の太鼓)をはじめ複数の太鼓を使って、何と古楽器によるドラムセットを組んでおり、終始鮮烈に鳴っていたこのドラムセットのサウンドが、濱田さんたちのウネリのあるファンキーな演奏とあいまって、「クラシック音楽」的な枠から、ルネサンス音楽を開放する大きな力となっていたのはまちがいない。

 先を急ごう。コルネットとオルガンによる厚い響きが印象的だった《運命の女神》をはさんで、今回の最初の笑劇の《犬》。その名前のとおり大きな「へび」の形(あるいは、濱田さんの形容では人間の「腸」の形)をしたセルパンは、素人目で見てもなかなか扱いにくそうな管楽器だが、橋本さんはこの楽器で「犬の鳴き声」から「ヘリコプターのプロペラ音」まで自在に物真似する。

 さて、この《犬》という曲は、コルネット&サクバットによるすっきりした透明な響きを、まるで邪魔するように「セルパン犬」が吠え、そのうえ、演奏者たちによる「ワン・ワン」コーラスが囃してたてるという爆笑の展開で、これで会場の雰囲気はいっきに弾け、なごんでしまったのだった。

 続く《ラ・モッラ》はオルガン・ソロ。西山さんが弾くとこの小型のオルガンからどうしてこのような音が出るのだろうかと思うほどの明快で力強い音楽が鳴り響いた。

 そしていよいよメディチ家のテーマ音楽《パッレ、パッレ、パッレ》の登場だ。メディチ家の家紋である丸薬を意味するという(他の意味もあるそうだが)「パッレ」(=玉の複数形)を連ねたこの曲はいかにも王様の御成りのときの音楽らしい。ともかくコルネット、サクバット、セルパン、ドラムがいっせいに立体的に鳴り響く派手やかな曲で、コクのある熱い響きの演奏は最高。この曲とともに「パッレ!パッレ!」と歓声を上げたという古のフイレンツェの市民に習って、江戸っ子の筆者としては「たまや(玉屋)〜!」とでも掛け声をかけたくなった。

 第1部のラストの《とある農夫が息子に嫁をもらった》では、軽快なドラムをバックにした濱田さんのコルネットと古橋さんのリコーダーの共演が楽しめたが、ほんらいはかなりHな歌のようで、次の機会には歌詞カードとともに歌唱をぜひ聴きたいと思った。

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 第2部の冒頭の《恋する女&レオンチェロ》では濱田さんは指揮に専念したが、ブラス・バンド的な熱いサウンドでは、この曲が今回のなかでも最高だった。楽器のなかではとくにバス・サクバットの音が凄い。そして後半にはなぜか《むんすでひらいて》みたいなメロディーが登場、「あっ、このメロディは..」と思うと、演奏者たちがとつじょ演奏しながら片手で《むすんでひらいて》を始めたのだった。このノリノリの演出はそうとう楽しい。曲の後で濱田さんから、《むすんでひらいて》の「原曲」とされているのは18世紀の思想家のJ.-J. ルソーによるものオペラ《村の占い師》のなかの音楽で、この曲は原曲というには古すぎて偶然似ているのかもといった説明があり、ルソーの曲の一節をリコーダーで聴かせてくれた。

 次の《ラ・スパーニャ》はオルガンをともなったセルパンのソロで、この楽器の妙技が楽しめたが、この曲の演奏に先立って、セルパンからその名のとおりなんとヘビが出てきたり(!)、テナー・コルネット(別名リサート)からその名のとおりトカゲが出てくる(!!)といった(従来のアントネッロのイメージを超えた)ギャグ付きの楽器紹介があったのは、めちゃくちゃ弾けた楽しさだった。アントネッロのライヴはいつでも予想を超えているのだ。濱田さんがたくさんのトークをすることじたい、これまでのアントネッロのステージではあまりないことだったのだが、今回はその親しみやすいトークも大きな魅力だった。

 そしてサクバットによるF1レースカーの轟音の模写(みごと!)をはさんで、4本のサクバット(ベース、テナー2本、アルト)によるアンサンブルで《エヴァの追放された子らは》が演奏された。

 つづく《インスブルックよさらば》でいよいよ歌手の春日さんが登場。トレードマークの身体全体を使った情感たっぷりの歌唱が、濱田さんのテナー・コルネットの甘美な響きと交錯する瞬間は、ほんとうに絶品の素晴らしさで悶えてしまった。そして古橋さんのドルツィアンを含むブラス全員による、ノリと歯切れのよいファンキーなサウンドの《ラ・ラ・ヘー・へー》の後に、ふたたび春日さんの歌唱付きの《コリーノの人生》。この曲は濱田さんのソプラノ・クルムホルンと古橋さんのソプラノ・リコーダーの軽妙な掛け合いをバックに、ノリのよい春日さんの歌唱が繰り広げられるというワクワクの展開で、さらに元気な「掛け声」がなんども出てくる(どうやら「ブス! ブス!」と女性に悪態をついているらしい[?])。まさに楽しさ炸裂の一曲だったが、それだけにそうとう猥雑でおもしろそうな歌詞をぜひ知りたくなった。

 さて筆者にとっての今回の最大のハイライトが、次の《スカラメッラは戦争に行く》だった。この曲はかなり以前に来日したミクロロゴスのステージで聴いて以来、CDや生演奏でなんどか聴いてきたが、筆者の知るかぎり、この曲(一般にはジョスカン・デ・プレの作曲のほうが知られていると思う)は、ミクロロゴスを代表として軽妙洒脱に演唱するのが通例の解釈だったと思う。まあ、武勇伝を語るドン・キホーテなどをイメージしながら聴くとぴったりだったのだ。しかし、今回のアントネッロ版は(コンペールとジョスカンの作曲をつなげて演奏したようだったが)、ともかく解釈/アレンジがこれまで聴いたものとはぜんぜん違ったのだ。まず、イスラム音楽の匂いすら漂わせるような腰の座りまくった春日さんの民族音楽的な絶唱があり、それに呼応してトラッド・フォークのように大地から沸き上がる男性コーラス(もちろん濱田さんたち全員の歌唱による)が展開されるというもので、そしてコルネットをリードにしたファンキーな演奏になだれこんでいった……。あまりの素晴らしさに筆者は総毛立ってしまった。これぞ古楽とトラッドを止揚した異次元の音楽ではないか。

 この興奮も醒めやらぬなか、春日さんの芝居っ気たっぷりのファニーな歌唱と、濱田さんのリコーダーをメインにした軽妙でファンキーな演奏が織りなす《こおろぎ》が演奏されて、プログラムは終了となった。満場の拍手に答えてのアンコールでは、くだんの《むすんでひらいて》がさらにも弾けた楽しさで演奏されたのだった。

 アントネッロの音楽は常に新しい発見と衝撃がある。それにしてもここまで楽しいとは! アントネッロ・パワー全開の夢のような一夜であった。

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◇蛇足

むすんでひらいての謎 《むすんでひらいて》については、キングレコードから『むすんでひらいての謎』と題された面白いCDがリリースされており、このメロディが、ルソーによる「原曲」(オペラ《村の占い師》のなかの劇中黙劇の音楽)に始まって、賛美歌、軍歌(!) 、フォーク・ソング……として世界中に広まっているのが一望できる。

 「ルソー研究家」の海老沢敏氏による詳しいライナー・ノートが付いているが、そこでもさすがにルソー(1712−1778)が作曲にさいして参考、あるいは使用した素材についての記述まではない。しかし、筆者は、今回のコンサートではじめて聴かせてもらった《レオンチェロ》という曲(たぶんトラッド曲?)がルソーの作曲となんらかのかたちでつながっていないともかぎらないのではないか? いや、これだけ広範囲に広まる力のある単純明快な旋律は、もともとはトラッド曲であった可能性のほうが高いのではないか、などと勝手に夢想してしまったのだ。[白石和良]

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