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2008/04/04

戸ノ下達也の「近代ニッポン音楽雑記」008|びわ湖には恐るべき河童たちがいた!

 びわ湖ホール声楽アンサンブルが、畑中良輔の指揮で東京での初公演「びわ湖からの春のおくりもの」を開催した(3月31日)。年度末の月曜という、私のような企業に勤める者にとっては最悪の日程にもかかわらず、紀尾井ホールに期待と不安をもって駆けつけた筆者にとって、ひじょうに思い出に残る、ほんとうに「おくりもの」をいただいたような演奏会となった。

 ますその多彩なプログラムが絶妙なバランスで構成されていたこと、ハイ・レヴェルな演奏技術の基礎があって、そのうえにさらに「音楽」が存在していたこと、そしてなにより日本語をうたう、日本の声楽集団であったこと──びわ湖ホール声楽アンサンブルの東京凱旋公演は、この3つの意味で大成功であったと思う。ソリストの集まりともいえるびわ湖ホール声楽アンサンブルの16名は、それぞれキャリアのある歌い手の集団で演奏技術が「高い」ことは至極当然ではあるが、個々の技術が高い歌い手が集まれば、すなわち素晴らしい合唱が生れるとはかぎらない。私自身これまでにもいくつも「ソリストの歌あわせ」のような場面に遭遇し失望した経験があるが、びわ湖ホール声楽アンサンブルの合唱は、まさにアンサンブルの極意であった。演奏者自身が、アンサンブルを楽しみながら「言葉」を歌う、合唱の真髄を見せ、聴かせてくれた。

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 五つのステージは、それぞれに楽曲の特徴をハーモニーに昇華していた。「色とりどりの愛のかたち」と題された第1ステージは、ブラームスの《愛の歌》に《新・愛の歌》の終曲による19曲が精緻なアンサンブルとなって歌われた。「日本の郷愁に浸って」と題された休憩後の第3ステージは、民謡詩曲集《日本の笛》より12曲が、はっぴ姿で景気よく、また心地よく、また第4ステージは「ボヘミアの草原にも春が来た!」と題しドヴォルジャークの《ジプシーの旋律》7曲が向河原愼一の編曲で、リズム楽器を交えて演奏された。さらに番外編として「とっておき、本日のデザート」として愉快な楽しいミニ・オペラ《河童譚》が軽快に演じられ、喝采を浴びた。

 どのステージも演奏者の持ち味が発揮された「美味しいメニュー」であったのだが、私にとってはなんといっても第2ステージ「いま、なぜ〈水のいのち〉なのか」の、塚田佳男の朗読の後に演奏された《水のいのち》が極上の味わいであった。私自身かねてから、日本の合唱団は日本の合唱曲の原点に立ち帰れと唱えては、いつも「なにを馬鹿な」と一蹴されているのであるが、あまたある合唱作品のなかでも、発表以来歌い継がれ、まさに「古典」ともいうべきこの作品をほんとうに「歌える」合唱団がいったいいくつあるのか、と考えている。たんに演奏技術が高くても、高野喜久雄の詩は歌えないであろう。私は、《水のいのち》という楽曲は、その詩や曲の意味するところを歌い手が理解し、いのちある「水」、すなわち森羅万象の生きとし生けるものや、自然への暖かいまなざしと共感をもつことなくして「音楽」は生れないということを通切に思い知らされる数少ない楽曲と認識している。畑中自身が語っているように、矛盾に満ちた現代社会に生きる今こそ、この《水のいのち》の詩をかみしめ、歌い、聴くことが重要で意味のあることなのである。

 この日のびわ湖ホール声楽アンサンブルは、最小限のヴィブラートで各パートがじつに美しいひとつの「水」となり、さらに他のパートと融合して素晴らしいハーモニーを作り出した。しかも高野の詩を明晰に「歌い」ながら。ようやく《水のいのち》の真髄をナマで聴くことができたこの感動。終曲「海へ」から第1曲「雨」に返っておわる「輪廻」を意識した畑中流解釈もみごとであった。

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 この感動を与えてくれたびわ湖ホール声楽アンサンブル、そしてなにより畑中良輔に感謝、感謝。心地よい春の一夜を過ごすことができた。[戸ノ下達也]

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