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2008/07/17

白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」028──テルプシコーレ×アントネッロ[2008/07/13|札幌]

◆声楽アンサンブル・テルプシコーレ10周年記念演奏会
 「イタリア・バロック音楽〜躍動する彫刻」
 2008年7月13日(日)13:30 札幌コンサートホール キタラ小ホール

◎出演:
 テルプシコーレ
  小出あつき
  陣内麻友美
  西田昭子
  根深夏
  南葉子
  久住千佳子
  陣内直
  上田哲
  村上勝重
  中原聡章
 アントネッロ
  濱田芳通(リコーダー&コルネット)
  石川かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
  西山まりえ(チェンバロ&ハープ)
 音楽監督:濱田芳通

◎曲目(*は、アントネッロまたは西山まりえのソロによる器楽曲)
[第1部]
 1.クラウディオ・モンテヴェルディ:星に語った
 2.クラウディオ・モンテヴェルディ:私は若い娘
 3.ジローラモ・ダラ・カーザ:パッサカリア《小さなジャック》(*)
 4.クラウディオ・モンテヴェルディ:ニンファの嘆き
 5.クラウディオ・モンテヴェルディ:まったく美しいお嬢さん
 6.アントニオ・マルティン・イ・コル編纂:フォリアス(*)
 7.アンドレア・ファルコニエーリ::フォリアス(*)
 8.アドリアーノ・バンキエーリ:《四旬節前の木曜日の正餐前の夕べの集い》より
    ディレット・モデルノ『現代的快楽』序にかえて
    動物たちの対位法
    恋人たちの仮装
    恋人たちがモレスカを踊る
    ディレット・モデルノは別れを告げ、ふたたび招く
[第2部]
 1.クラウディオ・モンテヴェルディ:死んでしまえたらいいのに
 2.クラウディオ・モンテヴェルディ:愛の神が狩りに行ったとき
 3.ダリオ・カステッロ:ソナタ第1番(*)
 4.即興演奏:パッサメッツオ・モデルノ(*)
 5.イル・ファーゾロ:ルチア夫人の嘆きとコーラの返事
 6.イル・ファーゾロ:ベルガマスカ:束の間の小舟

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 1997年に結成された札幌の声楽アンサンブル・テルプシコーレ(女声6名、男声4名の10人編成)の10周年記念コンサートは、濱田芳通さんを音楽監督に迎えてアントネッロと共演というもので、アントネッロ・ファンの筆者としては、テルプシコーレについてはこれまでまったく知らなかったのだが、アントネッロと初顔合わせの声楽アンサンブルによる新鮮なステージを期待して足を運んだのだった。

 はたしてその期待は裏切られなかった。勝手に想像していたよりもはるかに楽しいステージだったのだ。このコンサートには「イタリア・バロック音楽〜躍動する彫刻」というサブタイトルが付けられていたので、筆者はその「彫刻」という言葉から音響彫刻をイメージを連想してしまい、具体的に言えば英国のヒリヤード・アンサンブルのようなクールな声楽アンサンブルを勝手に想像していたのである。しかし実際のテレプシコーレはきわめて開放的で明るく、そしてひじょうにエモーショナルな熱い表現を聴かせるグループだった。ラヴーチェ・オルフィカとはいろいろな点でまったく異なるものの、とくにエモーショナルな表現という点では、アントネッロとも方向性がぴったりで、初共演とは思えないような息が合ったステージであった。いや、今回のコンサートでは濱田さんが音楽監督なのだから、正確には濱田さんのディレクションに従って、テルプシコーレがもともともっていた潜在的な指向性が発揮され、それがアントネッロと一致していたというべきなのかも知れない。

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 さてコンサートは西山さんのハープと石川さんのガンバをバックにした全員のコーラスによるモンテヴェルディの2曲から始まった。《星に語った》ではコクと深みのあるコーラスがまず印象的、《私は若い娘》ではよりダイナミックな動きのあるコーラスだった。ここでテルプシコーレはいったん退場して、アントネッロの3人のコルネット、ガンバ、ハープによるお馴染みのダラ・カーザの《小さなジャック》が演奏された。くっきりしたハープのリズムをバックに透徹したコルネットの響きが空間を自在に切り裂いていくさまは、なんど聴いても痺れてしまう。

 今回は全般にやや陰りを帯びてしっとりとした印象で、その雰囲気のままに、テルプシコーレがふたたび登場してモンテヴェルディの《ニンファの嘆き》が始まる。この曲はまずハープとガンバをバックにした柔和な男声コーラスでスタートしたが、刮目させられたのは、中間部でソプラノのひとり(すみません、個々の方のお名前がわからないもので)が少女役になって「愛の神様!〜」と嘆き訴えるところで、そのなんとも生々しくてエモーショナルな歌唱が耳に焼きついた。この嘆きの歌は男声コーラスが優しくいたわるように包んでいくが、ふと気がつくとそこに濱田さんのコルネットも加わっている。ちょうどもうひとりソロ歌手がいるように……。今回はいろいろな曲でもうひとりの歌手のようにコルネットが登場したのは印象的だった。

 そして、お待ちかねの《まったく美しいお嬢さん》。これはイタリアでは近年でもテレビのアイスクリームのCMに使われていた(!)というルネサンスの超ヒット曲で、モンテヴェルディとカレスターニによる2つのメロディがある。日本でも辻康介さんがカレスターニ版を日本語に翻案して《きれいなねえちゃんよ》のタイトルで自身のテーマ曲のようにつねに歌っているし、アントネッロはかねてから両方の版をレパートリーにしているが、とくにこのモンテヴェルディ版を手拍子シャンシャンの楽しさ弾ける演奏で聴かせてくれたことが忘れられない。この楽しい歌を今回は、濱田さんのピョコピョコと弾む軽妙なリコーダーを核にして情熱的なチェンバロとコブシの効いたガンバがうねるアントネッロと、明るいテルプシコーレの混声合唱が交錯していくという素敵な演奏で会場をおおいに沸かせてくれた。

 次にまたアントネッロによる器楽曲で2曲の《フォリアス》。最初のマルティン・イ・コルの曲は西山さんのトリプル・ハープのソロで演奏されたが、これは絶品であった。冒頭の即興的なパートからお馴染みのメロディが出てくるところの聴き手をじらさんばかりの落ち着き、懐の深い余裕、そして紡ぎ出される1音1音の鮮烈な美しさ。ここで心臓をわしづかみにされて、あとはもう西山さんの熱狂の舞に身を委ねるしか術がなかった。それは、ときにリズミカルな軽快なノリで、ときに激情を爆発させながら悠然と展開していったのだった。そして2曲目のファルコニエーリの《フォリアス》はアントネッロ全員による演奏。西山さんがチェンバロにチェンジして激しく打ち鳴らすと、それに石川さんの強靱なガンバが応酬して燃え上がっていく。そして火加減がよろしくなったところで真打ちの濱田さんのリコーダーが登場。京の五条の橋の上の牛若丸の如く縦横に自在に飛翔する超絶演奏で、チェンバロとガンバの熱い炎はさらに煽られて狂乱の舞へと突入していった。

 そして第1部の締め括りとして、バンキエーリによる謝肉祭の歌を集めたテレプシコーレのセットが力演された。アントネッロの歯切れのよいチェンバロとガンバをバックに解放感いっぱいの《現代的快楽》で始まり、《動物たちの対位法》では、ミャオミャオと鳴き騒ぐネコなどが登場していっそう盛り上がる……。終曲では、溌剌として起伏に満ちたコーラスに濱田さんの明るいコルネットも、もうひとりの“独唱者”として加わって大円団となった。

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 第2部はハープとガンバをバックにしたモンテヴェルディの濃厚な愛の歌でスタート。《死んでしまえたらいいのに》では重厚で深刻な表現でありながら透明感をもったコーラスが印象的。続く《愛の神が狩りに行ったとき》ではエモーショナルかつ伸びやかなコーラスが展開された。西山さんのハープもきわめて美しい。

 ここで濱田さんによる親しみやすい楽器紹介をはさんでアントネッロの器楽演奏へ。カステッロの《ソナタ第1番》では地響を上げるチェンバロとガンバの強力な通奏低音を従えて、リコーダーが軽やかに飛び回りながら熱い超絶演奏になだれこんでゆく。アントネッロならではの金縛りにあったようなスリリングな快楽! そして注目の即興演奏の《パッサメッツオ・モデルノ》の登場だ。アントネッロの即興演奏は5月の東京文化会館での「第1回定期演奏会」でもそうとう楽しませてもらったが、スリリングでかつユーモラスな心底ユニークな類の無い音楽(演奏)なのだ。今回もまたしかりだった。曲はまずチェンバロとガンバによるオスティナートの反復の繰り返しで始まり、これに、ためらいがちにコルネットが加わってスタートしたが、この3者の発する独特の間合いがなんともユーモラスで思わず微笑んでしまう。と、やはりコルネットがその枠の突き破るように少しずつ暴れはじめた。それにも動ずることなく淡々と反復を続ける通奏低音。と思いきや突然そのチェンバロやガンバが爆走をはじめ、それに触発されてコルネットが高らかにチャッコーナ?のメロディを奏でる……。つたない文章ではこの演奏の魅力をまったく伝えられないのが歯がゆいかぎりだが、全身を耳にして聴きほれながら頭の中では「名曲ではなく名演こそが存在する」といった言葉が響いていた。これはジャズについて俗にいわれている言葉だが、アントネッロの音楽にもそのまま通じるものだろう。

 コンサートのラストは最後はイル・ファーゾロの2曲。《ルチア夫人の嘆きとコーラの返事》ではメロメロにエモーショナルな男女の歌唱が素晴らしい。そして注目の《束の間の小舟》の登場だ。これは《船の上の宴会》とか《相乗り小舟》などとも訳されている曲で、ロンバルド人、ドイツ人、ナポリ人、フランス人、スペイン人……など各国の人々がそれぞれ自慢の食物持参で船に乗って宴会を繰りひろげるという内容のじつに楽しい作品。アントネッロはひところ、七条信明さんのヴォーカルでなんども聴かせてくれたが、今回はアントネッロのリコーダー/チェンバロ/ガンバによる、きびきびしたノリのよい演奏とともに、テルプシコーレの全員が趣向を凝らした全開のパフォーマンスを繰りひろげた。朗々としたテノールでの船長のご挨拶に始まり、オムレツを両手に満面の微笑みで登場するトスカーナ人、扇を手にした気取ったフランス人、無骨で厳めしいドイツ人、酔っぱらいのジェノヴァ人などなどがつぎつぎに歌いながら舞台に現れて笑いを誘う……。そして日本人も! 七条バージョンでは「寿司食いねぇ」の江戸っ子が特別出演したが、ここではもちろん「道産子」だった。客席の扉から突如「♪はるばる来たぜ函館ぇ〜」の歌声とともに登場してジンキスカン鍋や男山(酒)などの名物を歌い上げて場内爆笑。そして終いにはネコちゃん(熱演!)が乱入して、にぎやかなエンディングとなった。コルネットも高らかに鳴り響く。この曲がよく表していたようにテルプシコーレは全員が個性的な独唱者でパフォーマーでもあった。

 アンコールは定番のチャッコーナで、突き抜けたリコーダーの響きが多彩なコーラスと楽しく火花を散らす。滑らかに唸るガンバも印象的。先の目白バ・ロック音楽祭で、アラブ音楽に大胆に踏み込んで、またしても未踏の地平を広げたアントネッロが、北の大地の魅力的な声楽アンサンブルと聴かせてくれたのは文字どおり楽しさいっぱいのステージであった。それにしてもアントネッロの一挙一動からは目が離せない。[白石和良]

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