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2009/03/16

白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」032──アントネッロ[2009/01/08]

◆アントネッロ第2回定期公演「ニューイヤーカンティガス」
 《聖母マリアのカンティガス》
 2009年1月8日(木) 東京文化会館小ホール

◎出演:アントネッロ:
     花井尚美(歌)
     藤沢エリカ(歌、ダルシマー)
     岡庭弥生(歌)
     春日保人(歌、フルート)
     西山まりえ(歌、ゴシック・ハープ、オルガネット、カスタネット)
     矢野薫(プサルテリー、オルガネット)
     石川かおり(フィーデル)
     中村孝志(スライド・トランペット、コルネット)
     わだみつひろ(パーカッション)
     濱田芳通(音楽監督/リコーダー、コルネット、ショーム、スライド・トランペット他)

◎曲目:
 [第1部]
   序《詩を作り歌うとは》
   第1番《詩を作り歌います》
   第10番《薔薇の中の薔薇》
   第15番《すべての聖人たち》
   第384番《その大変な美しさゆえに》
   第167番《聖処女を信頼する者は誰でも》
   第139番《驚くような慈悲にあふれ》
 [第2部]
   第100番《聖母マリア、夜明の星よ》
   第166番《人々の体は罪によって》
   第60番《アヴェとエヴァの間には》
   第26番《驚くには値しません》
   第422番《神の母よ》
   第37番《美しく驚くべき奇蹟を》〜第159番《聖母マリアは許しません》〜エスタンピー
   第425番《喜びよ、喜びよ》
 [アンコール]
   モンセラート写本より《死に向かって突っ走れ》
   カンティガス第15番《すべての聖人たち》

 + + + + + + + + + +

 アントネッロはいつでも同じ曲でも同じ演奏を繰り返すことはなく、聴くたびにさらにもパワーアップした演奏を聴かせてくれる。そのうえ、今回はひさしぶりに、あの衝撃のロッキン・トラッド古楽を聴かせたアルフォンソ賢王編纂のカンティガスを演奏するというのだから、そうとうの期待や覚悟(?)をして臨んだのだった。しかし、ここまでの壮絶なパフォーマンスを体験させてくれるとは誰が想像できただろうか! 身も心も根底から揺り動かされた熱い感動で、この日からしばらくは回復不能になってしまったのだった。

 今回も特筆すべきポイントは多々あったが、筆者としては、まずはスライド・トランペットの活躍をあげたいと思う。多くの曲で、前奏からグループ全体の演奏を力強くプッシュし、さらにクライマックスではその興奮の炎にさらに油をそそぐように高らかに鳴ったスライド・トランペットの響きは、アントネッロの異次元の演奏にさらに有無をいわせぬパワーを加えていた。このスライド・トランペットは中村孝志さんが多くの曲で大熱演していたのだが、第2部ではついにリーダーの濱田さんもこの楽器を吹いて、2本でのファンファーレが高らかに鳴り響いたときには、ほんとうに金縛りになってしまった。

 濱田さんのいつもながらの超絶的なリコーダーやコルネットを核にしたグループの演奏は、ひとことでいえば、より確信を深めてテンションとパワーを高めると同時にいっそうしなやかになった印象で、音やリズムをいっそう自在に揺り動かしながら突き進んでいった。濱田さんはまた第26番ではクロムホルンに丸い袋を付けたような形の膀胱付きの管楽器でのファニーなサウンドを加えたり、第60番でのタブル(2本管)のリコーダーの熱い演奏をみせてくれたりと、感動させるだけでなく、ほんとうに楽しませてもらった。アントネッロ全体としても独自のポップ感覚にあふれたキャッチーな音楽ぶりにも、いっそうの磨きがかかっていたのだ。

 そしてやはりいっそう確信を深めて、しなやかになった印象の花井さんや藤沢さんたちの女性歌手陣と、いっそうコテコテにシアトカルに迫る春日さんとのバトルは、やはりこのうえもなく圧巻だった。そういえば、デモーニッシュな春日さんの歌唱に対して、腰の入った低音のソロを響かせて対戦(?)した岡庭さんの歌唱も、今回の斬新な要素のひとつ。アントネッロの今後の展開の楽しみがまたひとつふえた。そして第10番《薔薇の中の薔薇》などで、類のない地声の歌を聴かせる西山さんの歌唱も、今回はいちだんと安定感と説得力をました印象であらためて聴きほれてしまった。

 西山さんのハープや石川さんのフィーデルの、いっそう確信に満ちた繊細でかつ骨太なサウンドや、矢野さんのプサルテリーの透明度をました音、そしてわださんによる圧倒のパーカッション・ソロなどなど全員の演奏のすばらしさはあげきれないが、なによりも音楽の未踏の地平を突き進むアーティストだけが放つ希有の音楽パワー包まれたステージで、このような音楽体験をさせてもらえたことを心から喜びたい。mixiにも「これが音楽!」という熱いひとことの感想があったが、筆者も100%同感である。

 それにしても執拗なまでに音を揺り動かすような独自のサウンドは、たとえばブルースのスライド・ギターがようであるように、聴き手の精神を日常から解放して新たな次元へと導く効果をもっているかのようだ。

 + + + + + + + + + +

 2度の熱いアンコールのあったステージを聴き終えてひとつ思ったのだが、もうここまでくると、今回のように音のよいホールで静粛に聴き終えてから熱いブラヴォーを送るのもいいけれど、まったく別の場で黒人の教会でゴスペルを聴く聴衆のように熱いレスポンスを送りながら聴くのもふさわしいかもしれない。もちろんこの壮絶な演奏のぜんぶの音をちゃんと聴きたいという欲望もあるけれど、いちどライヴ・ハウスのような環境で、たとえばアンコール・ラストの15番のように、西山さんのラテン的なカスタネットと藤沢さんたちのハンドクラッピングが活躍するような曲などでは、観客も手拍子を打ちながら加わったらどうなるだろうか……などと愚考したのだった。

[白石和良]

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