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2009/03/17

白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」033──ビスメロ[2009/01/25]

◆Sound Museum in HAYAMA Vol.2〜ニュー・イヤー・ライヴ:古楽・ジャズ・民族音楽の出会い〜
 2009年1月25日(日)19:00開演 逗子・神奈川県立近代美術館葉山

◎出演:ビスメロ(VisMelodica)
     辻康介(vo)
     福島久雄(g)
     近藤治夫(Bagpipe)
     鈴木広志(ss,as)
     立岩潤三(Perc)
    ゲスト:藤川正雄 aka. まー坊(Sax)

◎曲目
 [第1部]
   即興演奏(藤川正雄)
   存在の自由区(福島久雄作曲)
   即興演奏(近藤治夫)
   測量船I(後藤國彦作曲)
   詩人の唄(レオン・ポール・ファルグ作詞/エリック・サティ作曲/辻康介日本語詞)
   測量船II(後藤國彦作曲)
   九官鳥(野口雨情作詞/本居長世作曲)
   測量船III(後藤國彦作詞・作曲)
   人買ひ船(野口雨情作詞/本居長世作曲)
   カーサドール(近藤治夫作曲)
 [第2部]
   谷神(立岩潤三作曲)
   私は叫びたい(作者不詳/14世紀イタリア)
   アルカシム(福島久雄作曲)
   即興演奏(鈴木広志)
   空飛ぶ絨毯(ニーザ作詞/レナート・カロゾーネ作曲/辻康介日本語詞)
   カーサローザ(近藤治夫作曲)
   きれいなねえちゃんよ(カブリエッロ・キアブレラ作詞/ヴィンチェンツォ・カレスターニ作詞/辻康介日本語詞)
   ゴリアルドのアヴェマリア(作者不詳13世紀《カルミナブラーナ》)
   月の出の唄(野口雨情作詞/中山晋平作曲)
 [アンコール]べラチャオ(イタリア民謡)

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「うぉー、今回はこの広大な空間で演奏するのかぁ!」……今年のビスメロ音会始めは、近代美術館の大きな展示スペースでのライヴというシュチェーション。天井が高く、総フローリングの床、しかも部屋の三方は大きな開口部があり、隣の部屋に吹き抜けになっているという気が遠くなるくらいのエアボリュームと響きの場所でおこなわれたのだった。ビスメロ(Vis Melodica=旋律の力)は、中世音楽からカンツォーネや日本語の歌までなんでも個性的に歌ってしまう鬼才ヴォーカリストの辻康介さんを中心にして、それぞれが幅広い音楽性をもったすご腕のミュージャン4人が集ったジャンル分類不可能のスーパー・グループだ。昨年は待望のファーストCDを発表し、さまざまな場所で積極的な演奏活動を展開してきたが、その音楽の広がりと演奏のパワーはとどまるところを知らないかのようだ。

 さて、このようなスペースでのライヴじたいは、最近ではさほどめずらしくはないかもしれないが、ビスメロといえば、あのル・タン・ペルデュ(横浜市野毛町のベルギー・ビールのビアホール)のような、それこそ肘をぶつけあうくらいのスペースに牛詰めの状態での超熱いライヴには定評のある(?)グループなので、それとはおよそ正反対のこのような場所ではいったいどうなるのか……はたしてその結果は、想像をはるかに超えた異次元の体験といおうか、クールで壮絶にすばらしいパフォーマンスが展開されたのだった。

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 第1部は姿をみせずに隣の部屋で吹くゲストの藤川さんのフリーキーなサックス・ソロの響きでスタートし、すぐつづいてふたりだけで登場した福島さんと立岩さんの当意即妙な即興デュオに引き継がれ、そして近藤さんと鈴木さんがそれぞれバグパイプとソプラノ・サックスを演奏しながら客席の左右から歩み出てくるといった具合に、まったくのノーMCで間をおかずに展開していった。普段は雄弁な辻さんも無言で、ハーディー・ガーディを弾きながらスタイリッシュに登場。レイドバックした(まったりした)自然体の雰囲気のなかで激演を聴かせるビスメロにはあるまじき(?)超クールな展開だったが、文字どおりクール(カッコイイ)! そしてメンバーの5人がそろって音を出すと、辻さんもハーディーガーディに加えてヴォーカリーズを聴かせた。このときのサウンドといったら、コンテンポラリーな音の美の塊といった感じで、この音に身をまかせると、もう法悦の状態になってしまった。

 総じて今回は会場のスペースをぞんぶんに生かして、立体的な「音響彫刻」を提示したような類のないコンサートだった。第1部では昨年のブリジストン美術館(ここは美術館内の小ホールでの演奏だった)で初演されたサティの《詩人の歌》や野口雨情の《人買ひ船》など日本語を生かした辻歌謡も登場したが、そうした唄モノでも辻さんは朗々と歌いながら場内をゆっくりと歩いて立体的なサウンド空間を構築していくかのようで、これまでの演奏とはまったく違った面白みがあった。もちろん《九官鳥に君が代を歌わせよう》という野口雨情の知られざる大傑作(こんな歌あったのですね!)を、歌と近藤さんのクルムホルンの掛け合いで演じるといったビスメロならではのユーモアも健在だったが、そうしたシーンですら、じつにクールに音響美的に決めまくっていたのが今回の新規さと思う。

 申し遅れたが、第1部はこのコンサートのために逗子在住の作曲家の後藤國彦さんが作曲した3つのパートの《測量船》を、即興演奏や唄モノの曲をはさんで展開していくという構成で、終演後に聞いたところによれば、《測量船》はかなり厳密に音を規定された作品とのことだったが、私の耳にはその曲と各人の力量をぞんぶんに生かした自発的な即興曲とのつながりにもまったく違和感はなく、あたかもひとつの壮大な曲のように感じられたのだった(じっさい、第1部はすべての演奏が終わってはじめて、割れるような拍手がわいた)。

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 さて第2部は、逆に意表を突くかのように5人があっさり正面から登場してはじまったのだが、立岩さん作のイマジネイティヴな《谷神》をはじめ、透徹した歌声が朗々と響く《私は叫びたい》、まさに変幻自在な福島さんの大傑作《アルカシム》と、初登場曲もおなじみの曲もやはりノーMCで、クールかつ淡々と演奏されていった。

 うーん、今日はこのまま最後までいくのかなぁ……と思いきや、ここで突如、辻さんのあの親しみやすい自然体のトークが登場。ここからいつものビスメロがちょっとばかり戻ってきた感じになったが、しかしつづく演奏は、鈴木さんによる、ほとんど息を吹きこまずにサックスのキイの音を主体にして超絶技巧が進行してゆく即興曲で、これまた最高にクール。そしてお待ちかねの楽しい《空飛ぶ絨毯》の登場となったが、ここではゲストの藤川さんのアルト・サックスと、鈴木さんのバリトン・サックスの咆哮が左右からステレオで迫ってくる展開で、そのすごすぎるサウンドにショック死寸前! その衝撃のさめやらぬうちに、おふたりはこんどはフルート×フルートでのみごとな響きあいも聴かせてくれたのだった。

 個人的には、ビスメロの5人の高度に完成されたアンサンブルに、ゲスト・アーティストが加わるのは容易ではないだろうという先入観をもっていたのだが、そんな先入観をみごとに打ち砕いて、また新たな展開をみせてくれたステージであった。終演後に鈴木さんが「藤川さんとは、当初は同じ楽器どうしということで危惧していたが、じっさいには共演していて楽しかった」といったことを話されていたが、そのような演奏者の楽しさも聴き手にぞんぶんに伝わってきた。そういえば第1部の《測量船II》ではおふたりのサックスが会場を前後からはさみこむかのように演奏する場面もあって、その芳醇な響きに身をゆだねるのはこれまた快感そのものであった。

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 さて第2部の話にもどると、次は近藤さんのおなじみの傑作《カーサロサーダ》。ここではやはりバグパイプを吹きながら,ゆっくりと場内をめぐってゆく近藤さんのパフォーマンスがじつに効果的。バグパイプは音量が大きくよく通るので、他の楽器以上にこうしたパフォーマンスには最適だ。ラストのパートは《きれいなねぇちゃんよ》《ゴリアルドのアベマリア》《月の出の唄》(傑作!)、そしてアンコールの《ベラ・チャオ》とおなじみのナンバーを軽妙なMC付きでの演奏で。いつものビスメロらしい気のおけない楽しさが加わったが、従前以上にもスタイリッシュかつ有無をいわせぬみごとな演唱で圧巻だった。

 終演後の満場の観客からの怒濤の拍手がものがたっているとおり、ビスメロの演奏のこれまでの演奏のなかでも文字どおり最高クラスの異次元の音に満ちたステージであり、また同時にグループの今後の無限の可能性の一端もかいまみさせてくれた記念すべき一夜であった。

[白石和良]

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