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2009/03/25

白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」036──平野公崇×山下洋輔×西山まりえ[2009/02/15]

◆SAXOPHONES MEET KEYBOARDS 音楽の越境者たち、自由の名のもとに集う。
 2009年2月15日 16:00開演 茨城県・水戸芸術館コンサートホール

◎出演:平野公崇(サクソフォン)
    山下洋輔(ピアノ)
    西山まりえ(チェンバロ)

◎曲目
 [第1部]Baroque Fantasia:
  1)サクソフォン・ソロによる即興[ss]
  2)カール・フィリップ・エマニエル・バッハ(平野編曲):《スペインのフォリア》による変奏曲Wq.118−119[ss&cem]
  3)チェンバロ・ソロ;ストラーチェ:《フォリア》[cem]
  4)ダリオ・カステッロ:ソナタ第2番[ss,cem]
  5)J. S. バッハ(平野編曲):ゴルトベルク変奏曲BWV988から5つの変奏[ss,cem]
 [第2部]Jazz Rhapsody:
  1)サクソフォン・ソロによる即興[ss]
  2)《フォリア》による即興[ss,p]
  3)ピアノ・ソロ:山下洋輔:やわらぎ[p]
  4)山田耕筰:赤とんぼ[as,p]
  5)山下洋輔:スパイダー[as,p]
 [アンコール(第3部)]:
  1)《フォリア》+《さくらさくら》による即興[ss,p,cem]
  2)J. S. バッハ/平野公崇:プレリュード[as,p,cem]
 ※ss,as……平野公崇 p……山下洋輔 cem……西山まりえ


 当代最高峰のチェンバロとピアノとサックスが共演するというこの前例のないコンサートは、西山さんのよき理解者でもある学芸員の矢澤孝樹氏の卓見と、幅広い音楽に対応するサックス奏者の平野公崇さんの驚くべき柔軟性によってなしえた企画に相違ないが、アントネッロと西山さんの即興精神にあふれた類のない演奏を以前から心酔してきた筆者としては、なによりも西山さんの即興演奏がついにジャンルの壁を超えて脚光を浴びはじめた記念すべきステージであり、日本の古楽演奏史にとってのエポックメイキングな「事件」といってもよいのではないかと思う。

 + + + + + + + + + +

 コンサートは平野さんのソプラノ・サックスによる清楚なソロ演奏で始まり、その途中から西山さんがステージ登場して、そのままデュオでの2曲目のC. P. E. バッハの《フォリア》になだれこんでいった。ここで西山さんはまず静かなイントロから全身全霊を没入した姿勢で演奏をはじめ、しだいに加熱して、暴れ者(?)のC. P. E. バッハならではの激しいトリルではチェンバロとソプラノ・サックスの繊細かつ激烈なからみあいに釘づけにされた。そして、この2曲と同じコード進行の曲を選んだというストラーチェの《フォリア》のチェンバロ・ソロでは、穏やかな出だしからしだいにスピードアップしていったが、どこまでも清楚な音での驚異の早弾きの魅力には心臓を直撃された。さらに、ふたたびデュオでの4曲目のカステッラのソナタでは冒頭からサックスとチェンバロによる、ぐるぐる旋回するようなウネリのある激演が最高だった。そうしてついに登場した期待のゴルトベルクでは西山さんの必殺技のひとつである独特の音のリュート・ストップも多用され、全般になめらかでかつ熱いサウンドによるデュオが繰りひろげられたのだった。

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 第2部は、冒頭のサックス・ソロからして第1部より明るいサウンドで、全開のジャズ演奏という感じが濃厚だった。山下さんの演奏について語るのは筆者はまったく適任ではないが、はじめて生で聴く名手の演奏は、想像以上に弱音パートの美しさが印象的であり、おふたりの演奏はさすがにみごとに決まったものだった。

 個人的には最大の注目はアンコールを兼ねて3人でいっしょに演奏された第3部、期待していた西山・山下の共演がついに現実のものとなったのだ。いつものようにくっきりとしたリズムでフォリアのテーマの演奏にはいる西山さんは、歓喜に目頭を熱くしながら演奏しているように思えたが、その熱い喜びはまさに西山ファンも共有するもので、挑みかかるようなサックスにたいして山下さんと西山さんがそれぞれ独自の語法で呼応していきながらひとつの音楽として聴かせるという、三角関係の(?)ユニークなトリオ演奏を体験できたのは心からの喜びだった。

 チェンバロとモダン楽器のピアノやサックスが共演するという、ほんらいありえないかたちを実現するには拡声器の使用など、いろいろな苦労があったことと思うが、サウンドのバランスもかなりの程度はとれていたと感じた。

 これを出発点として、西山さんのさらなる音楽的な冒険を熱く期待したい。ふだんの古楽奏での狂暴なまでの美しき魅力を、今後こうした交流試合でもさらに大胆に全開にすることを心待ちにしているのだ。

[白石和良]

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