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2009/03/25

白石和良の「闘う古楽&トラッド乱聴記」041──石川かおり[2009/03/14]

◆Kaori Ishikawa plays Tobias Hume(共同通信社オーディオ・ベーシック編集部主催)
 2009年3月14日 14:00開演 Studio K'S(東京・お茶の水)
 ※17:00からも同内容でおこなわれました。

◎出演:石川かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)

◎曲目(パンフレットと聞き書きによる):
 [Part 1]Live Recordings/Kaori Ishikawa plays Tobias Hume:
  トバイアス・ヒューム(1569頃−1645)作曲:
   1)キャプテン・ヒュームのパヴァーヌ
   2)ハーク、ハーク
   3)グッド・アゲイン
   4)兵士の決意

 ※以下は生演奏ではなくアントネッロ・モード・レーベルの録音音源の試聴会

 [Part 2]24Bit/96KHz−Audio File Anthonello MODEの今後の発売予定作品より:
  1)2009 SPRING発売予定『南米ペルーのバロック音楽トルヒージャ写本』(AMOE-10010)より「キリスト生誕のカチュワ」(演奏:アントネッロ&アドリアン・ヴァン・デル・スプール)
  2)2009 SPRING−SUMMER予定『17世紀のハープ音楽』(AMOE-10011)より
   《私の胸の中にある苦悩は》(モンテヴェルディ作曲)
   《バレット》(作者不詳、17世紀イタリア)
    (以上演奏:西山まりえ)
  3)2009 SUMMER予定『メディチ・ブラス』(AMOE-10012)より
   《アムローダ》(ドメニコ・ダ・ビアゼンザ作曲)
    (演奏:アントネッロ)

 [Part 3]24Bit/96KHz−WAV VS 16Bit 44.1 CD-A:
  『バッハ:インヴェンションとシンフォニア』(AMOE-10009)よりインヴェンション1番
    (演奏:西山まりえ)


 オーディオ雑誌の主催で、アントネッロの石川かおりさんのガンバ・ソロ演奏を中心にした興味深いイヴェントがおこなわれた。会場はマンションの一室にフローリングの床をしつらえた感じのよいスタジオ/試聴室で、観客20人ほどで満員になるこじんまりとしたスペース。オーディオ雑誌のイヴェントというと、超マニアックな世界を連想するかもしれないが(内容的にはたしかにその面もあったのだが)、集まった面々はアントネッロのコンサートで顔なじみの方も多く、説明者もアントネッロ・モード・レーベルの関係者ということで、アントネッロ・ファンにとっては想像以上にアット・ホームな雰囲気のイヴェントになっていた。

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 まず石川さんが登場してトークをまじえながら(石川さんのトークはめったに聴けないので貴重)、おハコのトバイアス・ヒュームの作品を4曲聴かせてくれた。ちなみにこの演奏はライヴ録音されて、5月発売の『オーディオ・ベーシック』誌のムックの付録のCDに収録される予定なのだという。それも普通の音楽CDよりも高音質の24Bit/96KHzのWAVファイル(ただし再生にはパソコンが必要)として。

 さて1曲目の《キャプテン・ヒュームのパヴァーヌ》では、最初の一音から、ガッツのある力感を感じさせながらも、ものすごく美しい音で、またあらためて強く惹かれてしまった。美しいといっても、絵に描いたようにキレイキレイというものではなくて、深みのある陰影や襞を感じさせる、実体をともなった美しさとでもいえばよいのだろうか。そして泣くべきところはじゅうぶん泣きを聴かせるといった、演奏のドラマ性の高さもひじょうに印象的だった。続く《ハーク、ハーク》では、全体的にさらに高い悲劇性を感じさせる演奏だった。これはピッツィカートを多様した興味深い曲で、ピッツィカートはじつにハリのある音で演じられ、そのぶんアルコ(弓弾き)のパートになると深く沈んでいくような演奏だった。ラストは弦を弓で打って鐘のような印象的なサウンドを奏でたが、これが深い嘆きの響きに聞こえてならなかった。

 3曲目の《グッド・アゲイン》では気分を一転して、包容力や優しさにあふれた、おだやかな歌心で始まったが、しかしこのようなときでもボーイングには石川さんならではの力感がこもっていて、しばしばハッとさせられた。そして演奏はしだいにテンションを高めていった……。ラストの《兵士の決意》は、先週の名古屋でのアントネッロのコンサート(別項でレポート)でも登場した曲目だったが、今回小さなスペースで、演奏者と向かいあうようなかたちで聴かせてもらって、あらためてインパクトをうけた。冒頭からキリリとした演奏で、行進曲ふうのメロディをクッキリとしたボーイングで力強く紡ぎだしてゆく。とくに楽器全体を揺さぶり共鳴させるような力強い低音がすごい。まさに勇壮な演奏であった。

 ダイナミズムとドラマ性にあふれ、高いテンションが貫かれた石川さんのガンバ演奏は、つけくわえれば、いい意味でのきわめて辛口の演奏でもあると思ったが、どもかく聴く者の手に汗をにぎらせ、体を熱くする演奏なのだ。ムックの付録のCDはもとより今後予定されているらしいアントネッロ・モード・レーベルからのソロCDなど、いっそうの活躍を期待したい。

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 ライヴ・レポートとしては以上で終わりなのだが、この後おこなわれた内容についても、ちょっとご報告したい。Part 2では、JBL(L65)のスピーカーがセットされ、アントネッロ・モード・レーベルの今後のリリース予定の注目の3作の音源を、くだんの高音質(24Bit/96KHz)のWAVファイルを使用して試聴する会となった。昨年12月の「ファンキー・ルネサンス・ライヴ」の記憶も新しい『南米ペルーのバロック音楽トルヒージャ写本(キリスト生誕のカチュワ)』では、スピーカーの位置をまったく感じさせない、空中にふぁっと広がる音が印象的だが、それでいて演奏のきわめつけの興奮とスリルはまさにあの12月のライヴそのもの! 可能ならば再生装置を含めて、セットぜんぶを家に持って帰りたいくらいだ。これはホール録音とのことだったが(といってもライヴ録音ではなく、別のホールでの録音のようだ)、これに対して、最後にかけられた『メディチ・ブラス』も昨年春のコンサートを彷彿とさせるように、ど迫力のブラス・サウンドがひしめき、絶唱したが、これは11月のスタジオ録音だという。このようにアントネッロ・モード・レーベルでは、特定の録音手法に固執せずに音楽内容によって、それにふさわしいやり方を柔軟に使いわけているというポリシーが確認できたのも、この日の収穫のひとつだった。アントネッロの音楽じたい、驚くほど幅が広いのだから、思えばこれもとうぜんのポリシーかもしれない。いずれにしても、耳から手がでるほどリリースが待たれるCDばかりなのだ。

 この2作のあいだには、西山まりえさんの17世紀のハープ・ソロのアルバムからの2曲(ホール録音)が紹介されたが、これもきわめてクリアなサウンドで、一音一音が輝いているような魅力があり、またリズムのクッキリした西山さんらしい演奏がよくとらえられていると思った。ただ個人的なオーディオ・サウンドの好みから、ひとつだけナマイキをいわせてもらえば、ハープの音像が実物よりも大きめに感じられたのがちょっと残念と思った。もっとも筆者はふだんほとんどのコンサートで、できるだけ前の席で直接音を浴びるように聴いているので、こんな感想になるのかもしれず、もっと客席の中ほどでホールの残響とともに聴いている大多数のリスナーの人には、これが自然なサウンドなのかもしれないとも思う。ともあれこれもリリースが待ちどおしいばかり。つけくわえれば、上記のムックの付録CDには石川さんの演奏に加えて、これらの音源のWAVファイルも収録されるらしい。

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 ひきつづいてPart 3は、昨年秋にすでにリリースされている西山さんのチェンバロ・ソロCD『バッハ:インヴェンションとシンフォニア』の冒頭の曲を、そのCDそのものと、同音源を24Bit/96KHzのWAVファイルにしたものを比較試聴するという、オーディオ的にはおもしろい試みだった。CDだけで聴いていればなにも不満などないものの、比較するとやはりWAVファイルのほうは音楽以外のよけいな響きが少なく、1枚ベールをはがしたような、よりみずみずしいサウンドであった。もっとも音楽ファンとしての耳で聴けば、素晴らしい演奏を前にしては、これはごくささいな差異ともいえるもので、(オーディオにまったく関心がないわけではない筆者としても)音楽とサウンドへの感性のバランスには、ちょっと苦慮するところでもあるのだけれど……。

 ついよけいなことまで筆がすべってしまったが、アントネッロをオーディオ誌の企画に起用するとはほんとうに画期的な事件であり、高度な音楽内容に加えて、その音の鋭さの点でもオーディオで挑戦するには超最適、まさにかつてなかった好企画にブラヴォーを送りたい。加えて上記のとおり、とてもアットホームな雰囲気の楽しいひとときであった。客席には西山まりえさんの姿もあったのだ。

[白石和良]

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