2007/05/26

小鍛冶邦隆の「Carte blanche」005|Lecture(読解)? Lecture à vue(視奏)?

◆藤井一興 ピアノリサイタル
 2007年5月8日(火) 東京文化会館小ホール

◎曲目
 フォーレ:バラード嬰へ長調
      ヴァルス・カプリス第1番 イ長調 op.30
               第2番 変ニ長調 op.38
 バリフ:エール・コンプリメ
 ドビュッシー:前奏曲集第2巻

◆野平一郎ピアノ演奏会
 2007年5月24日(木) 東京文化会館小ホール

◎曲目
 シューマン:森の情景 op.82
       クライスレリアーナ op.16
 ドビュッシー:練習曲集

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2007/02/18

小鍛冶邦隆の「Carte blanche」004|今日の現代音楽フェスティヴァルの意味とは?

 日本現代音楽協会(現音)主催の「現代の音楽展2007」全6夜が、3月4日から24日にかけて開催される。「現代の音楽展」は1962年以来45年間におよぶ歴史があり、現在では日本の現代音楽シーンを代表するフェスティヴァルのひとつといってもよいであろう。

 日本における現代音楽フェスティヴァルの歴史は、1960年代の前衛ファッションを反映したものから、1970年万博以降ある意味権威化した現代音楽のありかたを映し出したのち、1980年代からはいくらか同人会的といってもよい真摯さを備えた「現代の音楽展」が、少しずつ日本の現代音楽の創作の場として認知され、定着してきたのは事実である。もちろん、現音会員の作品の発表を中心とした公演では、海外の現代音楽の潮流を直接知ることは難しいし、またそれらの反映を聴き取ることはさらにまれであったといえよう。

 現音は国際現代音楽協会(ISCM)の日本支部(1949年から)として、1979年より毎年「ISCM世界音楽の日々からの夕べ」を開催することで、ISCM入選作の紹介をつうじて、今日にいたるまで海外の動向をあるていど伝える責務をはたしてきてはいる。しかしながらこうした海外音楽祭に相当するものは1990年代以降、企業財団が主催するさらに大規模な現代音楽フェスティヴァルによって、むしろ受け継がれているといえる。

 ISCMに代表されるかつての一極集中的な創作地図は、今日信じられているように現代音楽が多極化して中心を喪失し、またその多彩な表象を巧緻に扱う一部の音楽学者=評論家たちの言表によって、ますます移ろいやすくなっている。

 音楽作品の命運が、時流の果てに歴史によって裁定されるものだとするならば、「現代の音楽展」とはある意味で究極のアンデパンダン的理念にもとづくものといえるかもしれない。毎年、東京という都市文化の内部から繰り返し生みだされる音楽は、フェスティヴァルという時代のかりそめの祝祭にふさわしいものであるし、トウキョウ・コンテンポラリーとして祝福の時を生きる。

 以下に6日間の各テーマを紹介しよう。

 3月4日(日) 現代ピアノ・ワークショップ・コンサート
 3月5日(月) 世界に開く窓〜ISCM“世界音楽の日々”を中心に〜南米特集
 3月7日(水) 第13回朝日現代音楽賞受賞記念 山口恭範・吉原すみれ打楽器リサイタル
 3月13日(火) 室内オーケストラの領域Ⅵ・トウキョウ・コンテンポラリー! シリーズ2
 3月14日(水) 室内アンサンブル展II
 3月24日(土) 吹楽IV〜日本の吹奏楽の祭典

 「現代の音楽展2007」についての詳しい情報はwww.jscm.netを参照されたい。[小鍛冶邦隆]

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2006/12/21

小鍛冶邦隆の「Carte blanche」003|室内オーケストラの命運──東京シンフォニエッタ第19回定期公演を聴く

 6年ぶりに東京シンフォニエッタを聴いた(2006年12月15日、東京文化会館小ホール)。優れた演奏能力をもつ現代音楽アンサンブル団体の演奏である。ところで、私の印象はむしろこうした演奏行為の背後にある今日的な意味合いへと向かう。

 演奏された作品にかんしては、初めて聴く細川俊夫《旅VIII》以外は、なんらかのかたちですでに知る作品である。福士則夫《花降る森》は、私が主宰する東京現代音楽アンサンブルCOmeTで初演した作品で、そのさいの公演「室内オーケストラの領域III」で第3回佐治敬三賞を受賞した。また東京シンフォニエッタによる近藤譲《シジジア》と野平一郎《ドゥーブル》の初演を6年前に聴いている。近藤作品はスコアを通じてさらに知ることとなったが、野平作品の今回の改訂についてはたいへん興味深く聴いた。

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2006/12/20

小鍛冶邦隆さんのコーナーが始まりました!

 すでにお気づきと思いますが、作曲家で東京現代音楽アンサンブルCOmeTディレクター・指揮者の小鍛冶邦隆さんのコーナーが始まっています。

 まとめてお読みになりたいときは、以下のURLをブックマークしておくと便利です。

 http://bloomingsound.air-nifty.com/ongei/kokaji/index.html

 これからの展開をお楽しみに![genki]

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◎2006/12/25追記
 連載タイトルが決まりました。「小鍛冶邦隆の『Carte blanche』」です。「Carte blanche(カルト・ブランシュ)」という言葉は、フランスでときどき使われる言い回しで、署名入り白紙に自由に書き込むというところから、主催者から一任された制作者のコンセプトで自由に組まれるプログラムなどの意味もあるそうです。


▼小鍛冶邦隆のCD(by Amazon.co.jp)

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2006/12/07

小鍛冶邦隆の「Carte blanche」002|現代音楽演奏における教育の役割とは──「競楽VII」本選レポート

◆第16回朝日現代音楽賞/第7回現代音楽演奏コンクール「競楽VII」本選会
 2006年12月3日(日)14:00 けやきホール(代々木上原・古賀政男音楽博物館内)

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 先日、このブログでご報告した「競楽VII」第1次、2次予選を通過した9名が、12月3日(日)におこなわれた本選に出場した。結果の詳細については日本現代音楽協会のホームページをご覧いただきたい。この報告では、筆者がコンクールを通じて感じた、現代音楽演奏の問題にふれてみたい。

 第1位・朝日現代音楽賞を受賞した間部令子(フルート)は、すでにアメリカで現代音楽演奏のキャリアを開始しており、Ph. ユレルの《エオリア》や湯浅譲二《ドメイン》において自在な演奏をみせてくれた。また、木下大介(フルート)も審査員特別奨励賞を得るなど、日本におけるフルートによる現代音楽演奏の水準の高さを示した。第2位のピアノ・デュオ、藤井隆史&白水芳江は、古典的意味における演奏水準の高さのみならず、G. クラム《天体の力学(マクロコスモスIV)》でみせた現代音楽演奏の専門的な能力も説得力を感じさせた。

 第3位の高校3年生、見崎清水は、ブーレーズ《12のノタシオン》を演奏して聴衆賞を獲得した小学6年生の奥田ななみと同様、ブーレーズの《ピアノ・ソナタ第1番》を堅実に弾き、他の演奏曲──デュティユー《コラールと変奏》や野田暉行《オード・カプリシャス》──における古典性の延長線上に現代音楽を捉えている(彼女たちにみられるように、現代音楽でも古典同様に暗譜演奏が普通となったといえる)。

 とりわけブーレーズの音楽には、正確なソルフェージュ能力と高度な楽器演奏技術が求められるので、あるていどの年齢に達してから現代音楽に興味をもつといった自発性よりも、基本的能力の訓練期間にこうした音楽に適応する能力を習得させる必要がある。学習者の素質のみならず、現代音楽も含めたレパートリーを教えられるかどうかといった教師の資質が問われるといえよう。

 現代音楽を古典的レパートリーの延長線に位置づけ、ソルフェージュ訓練にかんしても、現代音楽の読譜や演奏に必要な能力にいたるまで学ばせる必要がある。10代前半で古典同様に現代音楽にも演奏能力をもつということは、一般的ではないとしても、けっして特別なことではない。

 もちろん現代音楽の演奏家には、さらなる未知の音楽の可能性を追究することが求められる。しかしながら現代音楽ファッションでない、同時代の音楽に実質的にとりくむことを可能にする能力は、個人的資質よりもむしろ、教育の質の高さに求めなければならない、ということを感じさせた現代音楽演奏コンクールであった。[小鍛冶邦隆(作曲家)]

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2006/11/22

小鍛冶邦隆の「Carte blanche」001|「競楽VII」本選近づく!

◆第7回現代音楽演奏コンクール「競楽Ⅶ」(第16回朝日現代音楽賞)
 第1次予選:2006年11月13日(月)・14日(火)10:30〜
 第2次予選:2006年11月19日(日)11:00〜
 けやきホール(代々木上原・古賀政男音楽博物館内)

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 去る11/13、14、19、「競楽VII」の第1次、第2次予選が終了した。「競楽」は現代音楽演奏コンクールとして日本で唯一のもので、朝日現代音楽賞としては、演奏コンクールの開催と優れた現代音楽演奏家の表彰が交互におこなわれている。

 1〜10人以内の編成で1945年以降に作曲された音楽作品であれば、楽器編成などなんらの制限ももうけない“無差別級コンクール”として知られるこの「競楽」からは、これまでに木ノ脇道元(Fl)、大井浩明(Pf)、黒田亜樹(Pf)、溝入敬三(Cb)らのユニークな演奏家を輩出している。今回も本選に小学6年生の女の子がブーレーズと八村義夫のピアノ曲で挑むなど、参加者の多彩さも特色のひとつだ。

 今回、予選を聴いたかぎりでは、木村かをり、小泉浩、篠崎史子、吉原すみれ、甲斐史子ら審査員諸氏の厳しいプロフェッショナルな視点から、現代音楽演奏としての特色(これも重要ではあるが)以前に、演奏家としての基本的な技術的水準が問われたといえる。

 実行委員としての私の立場からは、個々の演奏についてのコメントは避けるが、従来の現代音楽演奏にしばしばみられた、個人的な興味やセンスに安易に頼った不完全で恣意的な演奏から、古典の演奏同様、楽器演奏の習熟と解釈の厳密さが要求されるようになったように思える。むしろ、こうした古典的なアプローチが通用するところに、さらなる現代音楽演奏の広がりが感じられるし、逆説的にいうならば、そのアプローチの限界を超えた作曲家の要求にこたえる新たな才能が出現する可能性もまた予見できるのではなかろうか。

 ともあれ「競楽」をつうじて、ぜひとも聴衆のみなさんに、現代音楽演奏の最前線を体験していただきたいと思う。

 なお、今回予選に出場した計65名の参加者のなかから、9名が本選に残った。本選コンクールは12月3日(日)14:00より、けやきホールにておこなわれる。[小鍛冶邦隆(作曲家)]

◎日本現代音楽協会ホームページ www.jscm.net

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